歴史と伝説

妻木氏の謎(その5)

妻木氏の謎について気になる事を順次追記しようと思ってたがあまりにも多いので新たに「妻木氏の謎(その5)」として記事を立てることにした。 (追記1/14) 〇『徳川家康 (人物叢書) 』(藤井讓治 2020)に慶長5年8月27日のこととして さらに、東美濃の様子…

妻木氏の謎(その4)

妻木氏の「諱の謎」についてはほぼ解明できたのではないかと思う。『寛永譜』『寛政譜』の誤った情報は広く採用され、その誤まりを修正しようとする研究も今のところ無いように思われる。また「妻木玄蕃」について記された論文も複数あるようだが、彼が何者…

妻木氏の謎(その3)

この記事は2018年にツイッターで考察したことを思い出しながら書いている。妻木氏の諱の謎はほぼ解けたと思う。だが妻木氏の謎はまだあったことを思い出した。 諱を修正した上で『寛永譜』『寛政譜』を見れば (1)妻木藤右衛門廣忠は明智光秀の叔父で天正10…

妻木氏の謎(その2)

書き忘れてたことがあるので、まずそれを追加。 妻木の八幡神社の棟札に 大檀那 藤衛門尉源廣忠 花押 永祿二(己未)年五月二十八日 慶長十三年 大檀那傳入賴忠 花押 願主 妻木雅樂介源宗賴 とあり(『岐阜県土岐郡妻木村史 』)。これはかなり信用できる史…

妻木氏の謎(その1)

1 www.yamagata-u.ac.jp ニュースで妻木頼利の名前を見たので前々から気になってたことを書いてみる。 妻木頼利(1585~1653) 江戸時代前期の武士。天正13年生まれ。妻木頼忠の子 『寛永諸家系図伝』(以降『寛永譜』)は寛永18-20年(1641年-1643年)に編…

地震とナマズと豊臣秀吉

地震とナマズが結び付けられた最古の史料は豊臣秀吉文書だという。文禄元年12月(1593年1月)前田玄以に宛てた書状の中に ふしミのふしん、なまつ大事にて候まゝ とある。これは「伏見の普請、なまず(鯰)大事にて候まま」で「なまず大事」とは「地震対策が…

『三河物語』は徳川中心史観ではなく大久保中心史観 (目次)

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『三河物語』は徳川中心史観ではなく大久保中心史観 (その5)

徳川家康の「背信行為」を『三河物語』は記す。普通に考えればそれは家康にとって都合の悪い話であり「徳川中心史観」で書かれていると評されているにしては不自然なことである。さらに「背信行為」のアドバイスをしたのは著者大久保忠教の叔父大久保忠俊だ…

『三河物語』は徳川中心史観ではなく大久保中心史観 (その4)

家康は一揆勢との和議の条件「寺内を前々のごとく」を「前々は野原なれば、前々のごとく野原にせよ」という屁理屈によって反故にした。一般的にはこれは家康の「背信行為」であり、卑怯なことだと考えられている。よって家康にとって不都合な話であり、隠蔽…

『三河物語』は徳川中心史観ではなく大久保中心史観 (その3)

徳川家康は「前々のごとく」という起請文を交わしたにも関わらず、「前々は野原なれば、前々のごとく野原にせよ」という理屈で一向宗寺院を破却したと『三河物語』に書いてある。これは家康の「背信行為」だとされている。 この逸話がなぜ『三河物語』に書か…

『三河物語』は徳川中心史観ではなく大久保中心史観 (その2)

昨年の大河ドラマ「どうする家康」でもやってたが、三河一向一揆のときに家康が一揆側と「前々のごとく」という約束したにもかかわらず「前々」は野原だったのだからと、一向宗寺院を破却したという話が『三河物語』に書いてある。 其後土呂、春崎、佐崎、野…

『三河物語』は徳川中心史観ではなく大久保中心史観 (その1)

『三河物語』は『徳川中心史観(松平・徳川中心史観)」によって書かれているとし「徳川中心史観からの脱却」を主張する研究者は多い。だが本当に『三河物語』は徳川中心史観の書なのであろうか? 著者の大久保忠教(1560~1639)は江戸初期の旗本。徳川家臣…

青山成重と大久保長安と『甲陽軍鑑』(その5)

これでとりあえず終わり(にしたい)。 『猿楽傳記』によると小鼓の始祖は「美濃権頭」だという。これを宮増弥左衛門・弥七郎兄弟が伝授したという。 一方、『老人雑話』によれば、大蔵道入の子で大蔵道知の弟の大蔵道意の師匠は「美濃権頭」だという。宮増…

青山成重と大久保長安と『甲陽軍鑑』(その4)

前回でおしまいにするはずだったが、ツイッターで巫俊さんがとても重要な史料を発掘してくださったのでつづく。 簑笠之助https://t.co/pnzyrrNwZS — 巫俊(ふしゅん) (@fushunia) 2023年4月4日 『景憲家伝』(『武田流軍学全書 人』所収)から少し長いけど…

青山成重と大久保長安と『甲陽軍鑑』(その3)

(1)青山成重は服部平太夫(蓑笠之助)の実の弟という説があるが、一方、大蔵道知の弟という説がある。 (2)青山成重が大蔵道知の弟だとすれば、大久保長安は青山成重の兄弟の子で甥と考えられる。 その大久保長安の従兄弟(青山成重の甥)と考えられる大…

青山成重と大久保長安と『甲陽軍鑑』(その2)

(1)青山成重は服部平太夫(蓑笠之助)の実の弟、とする史料がある(『柳營婦女傳系』『蓑笠之助伝』他)。幕府公認史料の『寛政重脩諸家譜』では服部平藏正信の二男とあるのみ。『寛政重脩諸家譜』蓑氏の家譜では青山成重に一切触れず。 (2)服部平太夫が…

青山成重と大久保長安と『甲陽軍鑑』(その1)

江戸時代初期に青山成重という人物がいる。 『寛政重脩諸家譜』によれば、服部平藏正信の二男、母は靑山平大夫忠教の女。元亀2(1571)年青山忠重が戦死して後継がいなかったので徳川家康の命で後を継ぎ近習となったという。慶長18(1613)年大久保長安事件に連…

「二本手に入る」は「日本手に入る」なのか?(その2)

tonmanaangler.hatenablog.com 「二本手に入る今日の悦び」は「日本手に入る」だとすると誰が手に入れたというのだろうか?もちろん織田信長が手に入れたということだ。しかし、それはおかしいではないか。 いや以前の織田信長観だったらおかしいと思わなか…

「二本手に入る」は「日本手に入る」なのか?(その1)

「二本手に入る今日の悦び」という有名な歌がある 紹巴、末広がりの扇二本、台にすゑて直に捧げらる。いかにと見る所に、御前につい居て、上下をも取あへず、 二本手に入る今日の悦び と申されければ、信長卿、 舞ひ遊ぶ千世万代の扇にて (『小瀬甫庵選 信…

泥人形徳川秀忠

俺は日本史が趣味とはいっても、知らないことはいっぱいあって、徳川秀忠が「泥人形」と評されたということを昨日初めて知った(もしかしたら聞いたことがあるかもしれないが全く記憶になかった)。 で、検索してみたら、江戸時代中期に成立した『常山紀談』…

范可(斎藤義龍)について(その5)

范可(斎藤義龍)について(その3) - 国家鮟鱇 の追記でMMRのガイドラインにちょっと触れた。リンク先のスレッドの2(1は面倒なので飛ばす) ton.5ch.net ネタを解説するのは野暮なことだが、一応解説。まず「2ちゃんねる」という単語がある。「2ちゃんねる…

范可(斎藤義龍)について(その4)

もう一度おさらい。まずは史実かどうかは考察せずに純粋に『信長公記』は何と言っているのかを読み取る。 合戦に打ち勝ちて、頸実検の所へ、道三が頸持ち来たる。此の時、身より出だせる罪なりと、得道をこそしたりけり。是れより後、新九郎はんかと名乗る。…

范可(斎藤義龍)について(その1)

斎藤義龍が父の斎藤道三を討った長良川の戦い。 『信長公記』(新人物往来社)より 合戦に打ち勝ちて、頸実検の所へ、道三が頸持ち来たる。此の時、身より出だせる罪なりと、得道をこそしたりけり。是れより後、新九郎はんかと名乗る。古事(こじ)あり。昔…

アゴラの呉座氏の井沢元彦批判は適切か?

久しぶりに書く。 アゴラの呉座勇一氏の記事 agora-web.jp『日本国紀』については読んでないし面倒くさいからスルー。井沢元彦氏の主張に対する、呉座氏の批判は適切なのかという話。結論から言えば俺は適切ではないと考える。 史料が出てきたら見解を訂正す…

『付喪神記』と『百鬼夜行絵巻』(その10)

赤くて丸い物体について (真珠庵本) これについて田中貴子氏は 通常は朝日の出現と解されている物体が、『付喪神記』における「陀羅尼から発する付喪神調伏の火の玉(『図説 百鬼夜行絵巻をよむ』) だと主張する。『付喪神記』で 時に関白殿下、臨時の除…

『付喪神記』と『百鬼夜行絵巻』(その9)

あと『百鬼夜行絵巻』で思うのは、たとえばこれ。 上が昨日紹介した日文研本で下が東博模本。見ての通り、上の妖怪が下では蛸の妖怪になっている。ただし妖怪のポーズに変化はない。 で、それはそれとして、その妖怪と亀に乗った蛙の妖怪との位置が異なる。…

『付喪神記』と『百鬼夜行絵巻』(その8)

2007年に発見された『百鬼ノ図』日文研(国際日本文化研究センター)蔵。『百鬼夜行絵巻の謎』(小松和彦)に載る。 (集英社新書)" title="百鬼夜行絵巻の謎 (集英社新書)">百鬼夜行絵巻の謎 (集英社新書)作者: 小松和彦出版社/メーカー: 集英社発売日: 2008/1…

『付喪神記』と『百鬼夜行絵巻』(その8)

『付喪神記』(国会図書館本)に赤鬼と青鬼の「悪鬼」が登場することは既に書いた。彼らは器物が妖変した付喪神。実はそれ以外にも「鬼」が登場する。それが「護法童子」。 然るに第六日の後夜の時に御聴聞の為に、主上出御なるとて、御殿の上を御覧ぜらるゝ…

『付喪神記』と『百鬼夜行絵巻』(その7)

『付喪神記』の「悪鬼」は「鬼」とはいっても「鬼神」ではなく、あくまで付喪神の一種であろうということは既に書いた。 では『百鬼夜行絵巻』(真珠庵本)の「鬼」は何者か? そもそもどれが「鬼」なのか判断が難しいが、明らかに鬼だと考えられるのは赤鬼…

『付喪神記』と『百鬼夜行絵巻』(その6)

今回は『百鬼夜行絵巻』について。まず基礎知識として「百鬼夜行」には「鬼神の行進」「妖怪の行進」「行進だとは限らない」と様々なバリエーションがある。『百鬼夜行絵巻』は少なくとも4つの系統があり最も有名なのは「真珠庵本」と呼ばれる系統。一般に『…