『シリウスの都 飛鳥』ってどうよ?

[書評]シリウスの都 飛鳥 日本古代王権の経済人類学的研究(栗本慎一郎)(極東ブログ
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2006/01/__9872.html

シリウスの都 飛鳥 [本とか映画とかTVとか舞台とか](医学都市伝説)
http://med-legend.com/mt/archives/2006/01/post_743.html

 年始早々、二つの有名ブログで紹介されていた栗本慎一郎先生の『シリウスの都 飛鳥 日本古代王権の経済人類学的研究』。面白そうなんで、立ち読みしてから買うかどうか決めようと思って、本屋で探したんだけど見つからなかった。アマゾンなら買えるだろうけど、¥2,310だから貧乏人としては中身を見ないで買うのはちょっと勇気がいる。とかいいながら、ついでに立ち寄ったブックオフで¥1,800のお買い物。しかしこれで新書・文庫本計7冊も買えたのだから、内容のない新刊を買うのは馬鹿らしい。とはいえ読む価値があるものなら新刊で買うことも辞さないんだけど、どうしようか悩む。図書館に入ればいいんだけどなあ…

 さて、書評を読むと『医学都市伝説』さんの方では「トンデモ本」扱い。まあそうなのかもしれない。しかし、俺は疑似科学をさんざん批判していながら、この方位信仰についてだけは、どうしてもトンデモ扱いができないのです。というか俺の中では、まだまだわからないことが多いながら、相当大規模な方位信仰があったのではなかろうかと、ほぼ確信していたりします。ただし難しいのは文献史料が無いに等しいので、それを証明するのが非常に困難だということです。でも文献史料が無いから、存在しなかったなどということはできません。特に日本の場合、文字を導入したのは世界史的に見ればかなり遅く、それはなぜかというに、日本が後進国であったという考え方もできましょうが、そうではなく、あえて文字を使用することを拒否してきたのではなかろうかと思われる節もあり、それは後々まで「伝授」というような形で続いてきたのではないかと、まあ大した根拠もないですけど、そう思ったりします。

 というわけで、日本古代の遺跡、たとえば巨石遺跡などは、実際のところ何のために使用されたのか、よくわかっていませんし、ぶっちゃけほとんど手付かずの状態で放置されているのが現状だと思います。ましてや、本当に存在するのかもはっきりしない、直線上に並ぶ聖地(いわゆるレイラインとか「太陽の道」と呼ばれるもの)などというものはキワモノ扱いで、まともな研究者が取り扱うべきものではないとされています。
 で、専門家が扱わないものだから、主に専門家以外の人たちが、それを研究しているわけで、その中にはそれなりに優れたものから、もうどうしようもないほど出鱈目なものまで、ピンからキリまであるわけです。そして否定派の人達は、そういった出鱈目な部分を指摘して、だからそんなものは無いのだと批判していたりします。

 もちろん、証明責任は「ある」と主張する側が負うべきとされるものですから、出鱈目なことを唱えるほうに問題があるのは当然ですけど、だからといって、それで否定できるかといえば、そういうことにはなりません。そういう方法では、少しでも間違いがあればそれで全てが否定されてしまいます。しかし、間違いがあれば、その間違いと、それから派生する推論は否定されますが、それ以外の部分が否定されるわけではないです。特にこういう場合は不明な部分が多いのですから、誤りが全くないということは、まず有り得ないのであって、試行錯誤を積み重ねていけばいいはずです。最初から存在ありきなのもトンデモなら、存在しないったらしないんだという態度もまた、科学的な態度ではなかろうと俺は思います。

 とはいえ、現状では「存在する派」の人間にオカルトチックな人が多く、まともに取り上げられないのも仕方なかろうとは思います。「超古代」やら「宇宙人」やらが出てきては、さすがに無理がありすぎです。あるいは「直線」と言っているのに実はそうでもなかったり、直線上にあるといっても特に重要でもない神社・仏閣であって、それくらいなら日本国中いくらでも直線が引けるだろうというようなものだったり、結論を急ぎすぎてボロが出ていたりで、がっかりすることも多いです。そういうゴミのようなものが多いのは確かですけど、そうでないものもあります。

 日光東照宮禰宜高藤晴俊氏が主張する、日光東照宮久能山東照宮を結ぶ直線は、それに該当します。
http://nikko.yumekaido.ne.jp/nazo/index.html
 俺は実際に確認しましたけど、日光と久能山を結ぶ直線上には、徳川家康の祖先とされている新田源氏の世良田氏の本拠地があります(高藤氏は世良田と言っていますが、実際にはまさに「徳川」(群馬県太田市徳川町)を通過しています。世良田東照宮があるので、そうしたのでしょうけど、それでは少しずれています。俺は「徳川」で良いのではなかろうかと思います)。家康にとって重要な地である三ヶ所が一直線上にあるというのは、もちろん「偶然」である可能性もありますが、そうでない可能性だって十分にあります。決して無視できるようなものではありません。これが偶然だというのなら、歴史学者が唱える説にだって、偶然で説明できることはいくらでもあります。しかし、それでもまともな研究対象にされているとは、とても思えません。

 というわけで、極めて少数ですが、魅力ある説もあるのです。そして極めて少数ですが、学問の名に値する研究をしている(いた)方もいらっしゃいます。千葉大学の山田安彦氏の研究は、列島を縦断するような大規模なものではなく地域的なものが研究の主流でしたが、素晴らしいものでした。

 というわけで、この手の話自体は決してトンデモではないのですけど、トンデモさんの入り込む余地が大きく、また良心的な研究でも未熟な点がまだまだ多く、だからといって誤りを指摘してそれでよしとするのではなく、むしろ注目すべき点を掘り下げていけば、新たな発見もあるのではなかろうかと思うのであります。その点、finalvent氏は、
「アカデミックに見れば、トンデモ本の類であろう。またごく一般書として見ても議論も文体も整理されていない駄本といった印象も受ける」
 としながらも、見るべきところを積極的に評価しています。


 最後に、俺が今までに見たことのある参考文献をピンからキリまで紹介。トンデモ本もありますけど、数が少ないのでそういうものであっても僅かに貴重な情報が含まれている場合があるので。

『古代の方位信仰と地域計画』(古今書院)山田安彦
『呪術・巨大古墳と天皇陵』(雄山閣出版)佐藤至輝
『濃飛古代史の謎―水と犬と鉄』(三一書房)尾関 章
日光東照宮の謎』(講談社現代新書高藤晴俊
常陸東西金砂神社「磯出大祭礼」試論』(東アジアの古代文化 117号)吉野裕子
『陰陽五行と日本の天皇』(人文書院吉野裕子
『大和の原像』(大和書房)小川光三
『古代史を解く三角形』(中日出版社)大谷幸
『縄文夢通信』(徳間書店)渡辺豊和

『日本超古代遺跡の謎―「日本のピラミッド」が明かす世界文明発祥の謎』(日本文芸社鈴木旭
『風水先生レイラインを行く』(集英社荒俣宏
日光東照宮隠された真実』(祥伝社宮元健次
『天海・光秀の謎―会計と文化』(税務経理協会)岩辺晃三
『黄金結界―甲州埋蔵金の呪いに挑む』(河出書房新社加門七海

古代文明の謎はどこまで解けたかⅡ』(太田出版ピーター・ジェイムズ、ニック・ソープ
『新・トンデモ超常現象56の真相』(太田出版