『「空気」の研究』はトンデモ本である

池田信夫 blog : 「空気」の病 - ライブドアブログ


相変わらず山本七平の『「空気」の研究』の評価は高いようだ。山本七平自体はその他の言説で大いに批判されているにもかかわらず、この本だけは聖域であるかのようだ。

日本軍では、攻撃によって何を達成するかという目標よりも、組織の中での空気の共有が重要だったのだ。

戦艦大和の出撃については前に書いた。
「空気」の研究 - 国家鮟鱇

大和出撃の目的は、海上特攻による戦闘の勝利ではなく、「一億総特攻のさきがけ」になることだった。だから「攻撃によって何を達成するか」という目標は明確であり、「全般の空気」とはこの明確な目標のことを指していると考えるのが合理的だ。


一方、山本七平及びそれを支持する人達は、目標は戦闘の勝利であり、それを達成することは不可能であることはあらかじめ予想できたのにもかかわらず出撃したのは無謀であったと解釈しているのだろう。


俺もこの本を読む以前、新聞等で引用されているのを見ていた時はそう考えていた。それに疑問を持ったのは、まさに『「空気」の研究』を実際に読んだ時だった。山本の提出した「事実」だけでは、俺には、山本氏の「結論」に至ることがどうしてもできなかったのだ。それで調べてみると「一億総特攻のさきがけ」云々とウィキペディアに書いてあった。


(ただし真相はまた別のところにあるのかもしれない。そこは戦史に詳しくないので自信がない。だが、山本氏の提示した「事実」のみでは、山本氏の結論に至ることはできないということだけは言えると思う)


それでは、なぜこのような主張が広く受け入れられているかというと、日本人は「空気」に支配されているという主張が日本人の琴線に触れるものだったからだろう。


『日本人が「空気」に支配されているのは事実なんだから細かいことは気にするな』


ってことなんだと思う。そもそも論理がおかしいということに気付かない人も多いだろうが、気付いたとしても批判しにくい「空気」が流れているんだろう。


なお「空気の研究」のツッコミどころはここだけではない。というか、そこで取り上げられていること全てにツッコミどころがあると思う。


※今までに書いた「空気の研究」批判(必ずしも「空気の研究」批判が主題というわけじゃないけれど)
地球温暖化と「空気」の研究 - 国家鮟鱇
地球温暖化と「空気」の研究 (その2) - 国家鮟鱇
『「空気」の研究』と福沢諭吉
では諭吉は何と言っているのか?
福沢諭吉と浄土真宗 - 国家鮟鱇
言必信 行必果


その他にも、よく引用されているミイラの話とか、よくよく考えてみると、それって本当に日本的な話なんだろうかとか、いろいろ疑問に思うものがある。



(本当はこういう断定的なタイトルは避けたいところなんだけれど、あまりにもこの本の評価が高くて、批判らしい批判が少ないのであえて断定的に書いてみた)