民間事故調とマスコミ

H-Yamaguchi.net: 「ぞっとした」にぞっとした話

客観的な報道のふりをして、主観的な評価をすりこもうとしているようにしか思えない。で、そのためなら違和感の残る文章をそのまま書いても平気、「ぞっとした」発言の裏付け取材などすっとばしてしまっても平気という乱暴さも兼ね備えているわけで、こうなると別の意味でぞっとせざるを得ない。

報告書の原文はネット等に公表されていないみたいだが、「ぞっとした」発言は民間事故調の報告書に書いてある「事実」と考えて間違いないだろう。そしてその「事実」を恣意的に歪曲して報道したのではないことも状況的に見て間違いないと思われる。つまり報道内容は報告書の内容に忠実だということだ。もちろん報告書が正しいとは限らない。したがって「裏付け取材」が出来るのであればする方が良いに決まっている。しかし報告書での発言者は匿名になっている。匿名といっても該当する人間は限られているから片っ端から取材すれば確認できないこともないかもしれない。しかしそれには時間がかかる。マスコミには速報性も大事だ。


だからといって「報告書に書いてあるという事実」や「誰々が証言したという事実」をもって、何でもかんでも記事にするわけにはいかない。たとえばどこかの一般人が「今年地球は滅亡する」と発言したのが事実だったからといって「今年地球は滅亡する」という記事を書いたらだめでしょう(とはいえ実際それに類似したケースはよくある)。一方、政府の「白書」などは内容がいつも完璧だとは限らないけれど、その批判は随時行えば良いのであって、余程変なことが書かれていない限りは、それをそのまま記事にして後で問題が見つかったり意見が分かれる部分があっても、批判されるのは政府であって、マスコミが批判されることはないと思う。


で、民間事故調の報告書はどういう位置付けになるかというと「民間」であるから政府が作ったものではない。政府が作ったものであれば、読む方も「これはあくまで政府の見解だ」という見方ができる。しかし「民間」の場合は信用度の点で千差万別だし、「市民」と同様に無色透明なイメージがありながら実際には特定の色が付いていてなおかつそれがわかりにくいという場合もある。俺はこの民間事故調の報告書は「政府の都合の良いように書かれたものではない」という点でそれなりの価値はあるかもしれないが信用性の点ではかなり微妙なもののように思える。しかし「福島原発事故独立検証委員会」というものものしい名前はいかにも信用ある組織であるかのような印象を与える(○○協会などと名乗る悪質商法と似てるというのは言いすぎではあるが)。


新聞社のネット記事を見る限りでは、この民間事故調についての簡単な説明はしてあるけれども、多くの人がこの「民間事故調」という名前に釣られている感じがする。これが「福島原発事故について考える会」みたいな名前のところが出した報告書だったらまたイメージが変わっていたかもしれない。


というわけで、これらマスコミ報道の第一の問題点は意図的なものかどうかは知らないが民間事故調」なる団体がいかにも信用できる団体であるかのような印象を植え付けているということである。そういう意味では「ぞっとした」発言を取り上げたか否かが最も重要な問題点ではない。ただし、面白いことにこれを取り上げた読売・朝日と取り上げなかった毎日・東京では明らかに違いがある。

 東京電力福島第1原発事故の原因などについて民間の立場で検証しようと、財団法人が設立した組織。通称・民間事故調。委員は元検事総長但木敬一弁護士ら民間人6人。研究者や弁護士ら約30人から成るワーキンググループがあり、菅直人前首相ら政治家や官僚ら300人余りから意見を聴取した。原発事故をめぐっては政府、国会、日本原子力学会なども独自に調査している。法律に基づいて設置された国会の事故調は、証人喚問といった強い権限がある。

民間事故調:福島第1原発 官邸初動対応が混乱の要因 - 毎日jp(毎日新聞)

 民間事故調は、シンクタンク「日本再建イニシアティブ」(船橋洋一理事長)が主導し、委員六人と約三十人の作業グループが調査に当たった。政府関係者を中心に三百人に聴いたが、東電首脳への聴取はできず、事故調は「協力が得られなかった」としている。

東京新聞:福島第一 対応「場当たり的」 民間事故調が報告書:福島原発事故(TOKYO Web)


ネット記事で比較した限りではあるが、毎日・東京の記事にはこの「民間事故調」なるものがどういう団体なのかについての比較的詳しい解説が載っている。さりげなく読者に注意喚起しているのか。ただの偶然なのかわからないけれど面白い。