解釈の難しさ

013-06-24 - 猫を償うに猫をもってせよ
はてなブックマーク - 【書評】歴史研究者に「ですます」調で激しくDISる本郷和人著『戦いの日本史』(角川選書) - 歴史ニュースウォーカー
結局のところ俺は恵美嘉樹氏が本郷和人氏に何を要求したのかさっぱりわからないのである。話の流れからすれば「日本人のための東大史料編纂所の資料だけを使った日本史」というのは「通史」のことであろう。所蔵史料を使って日本史に関するあるテーマに絞った本、たとえば「島津家文書」についての本のようなものをを書いて欲しいという意味には受け取れない。ところが所蔵史料だけで通史を書いて欲しいという要求はあまりにもおかしすぎる。したがって文面からは読み取れないが本当に言いたいことは別のことだろう、おそらく大日本史料などを使って通史を書いて欲しいという意味だろうと解釈したわけだ。ところが本郷氏は「みんな複写(影写本・謄写本・写真帳・デュープフィルムなど)です。これも使って良いのなら、十分に書けます!」と返答して、恵美氏はそれに納得しているのである。しかし複写を使って良いのならなんで「東大史料編纂所の資料」に限定しなければならないのかが謎だ。で、実のところ恵美氏が何を要求したのかなどどうでもいいのである。興味があるのは本郷氏は何を要求されたのか理解した上で返答したのかということだ。俺だったら「おっしゃっていることがわかりません」と答えるところだが、会話が成立しているからには理解できていたということになるのだろう。しかし釈然としないのである。



ところで、それはそれとして何で本郷氏はこんなに評価が高いんだろう?と俺は思うのであった。というのはもちろん俺は評価してないからである。この記事で『戦いの日本史 武士の時代を読み直す (角川選書)』が取り上げられて評価されている。俺は読んでないけれど、引用されている文を見る限りでは目新しい話ではない。既にどこかで見たようなことばかりだ。もちろん大抵の歴史学者はこんなことは既に意識していることだろう。そして突っ込みどころもある。


川中島の戦いにおいて普通は「引き分け」という評価が下されているが、信玄がこの地を守り抜いているから信玄の勝ちだというのである。


しかしこれは引用されている

1 相争うAとB、どちらが攻めで、どちらが守りが、をまず確認する。

2 攻める側、つまり戦いを起こした側は、何を目的としていたかを明らかにする。

1と2を踏まえて、

3 戦いの目的が達成されているか否かを検証しながら、勝敗を確定する。

を踏まえた上でのことだろうか?信玄が勝ちだというのは、つまり勝負の目的はこの地を取る・守るということだったということになる。しかしウィキペディアを見ると

川中島の戦いは、戦を行う理由として、武田、長尾(上杉)両氏が内乱を起こしかねない臣下に対して求心力を高めるためのパフォーマンスのようなものだったとする説がある[19]。また、同盟関係の証明のため、武田が攻めざるを得なかった、という説もある。

川中島の戦い - Wikipedia
という山室恭子氏の説が載っている。この主張が妥当かどうかわからないけれど、この場合の「目的」は戦の勝敗にあるのではない「どちらも目的を達成した」という可能性だってあるわけだ。こういうことを考慮に入れた上で信玄の勝ちとしているのだろうか?


(追記)自分で書いててどこかで似た話を見たことがあるなと思っていたんだが思い出した。

つまり同書の焦点は対立、特に武力対立であるところ、対立する両者の勝利条件というのは必ずしも綺麗に表裏になるわけではない。両者とも勝利条件を満たすとか、逆に両者とも失敗する事例も想定できるので、当事者Xが勝利条件を満たせなかった→反対当事者Yの勝利とは言えないでしょうと、そういうこと。これが「前者」とした「「対立」から中世史を読み解くという視覚から種々の戦争についても論じているが、攻めた側の戦略目標が実現されれば勝ち、そうでなければ負けと単純化している部分があり。攻めさせるということもあれば双方とも戦略目標実現に失敗というケースもあるよねえと。」の内容。

武力と日常(1) - おおやにき