浦島太郎最大の疑問点

 そうした許容限度を超えたもっとも大きな疑問点は、太郎はお金まで払って亀を助けてやったのに、その結果が「たちまちお爺さんになってしまいました」というのでは何とも割が合わないではないか、という点である。

浦島太郎の文学史(三浦佑之)


一般的にもそこが一番の疑問点なのかもしれないけれども、その答えは一般的にも言われている。「約束を破ったから」だ。いや正確には「約束を破ったから」ではなくて「忠告を守らなかったから」か。


もっとも三浦氏は

また、浦島は亀を助けるという良いことをしたのに「なぜ罰を受けたのか?」という疑問には、「トリビアの泉」にも出演した立正大学の三浦佑之教授が「罰を受けるという風にとる必要はないと思います」とコメントした。

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とおっしゃってるらしいが。俺はそれには納得できない。


しかし、俺の最大の疑問点はそこじゃない。


巌谷小波の「浦島太郎」にはこうある。

をゝさうだ。私はこんなことをしてはゐられない。家にはお父さんもお母さんもゐるんだ。この間出たつきり帰らないから、さぞ心配してゐるだろう。どれ早く帰らなけりやあ……」と、大急ぎで支度をして、
「どうも長々お世話になりました。もう暇(いとま)を致しますよ」と云ひますと、乙姫はしきりにとめて、
「まあ、あなたよいではございませんか。もう一日泊まつていらつしゃいましな」と云ひましたが、
「いや、どうあつても帰らなけりやならない」と容易に聴きそうもありませんから、
「それぢやあしかたがございません。今日はお帰し申しませう。その代りにこの品を、お土産の印にさし上げますから、これを持つてお出下さいまし」と立派な箱をくれました。

浦島太郎は両親が心配しているので帰ることにした。しかし帰ってみると既に出発してから700年も経っていて当然のことながら両親はあの世に旅立っていたのであった。


なぜ乙姫はそのことを太郎に説明しなかったのだろうか?


なるほど良く読めば、太郎が両親が心配しているので帰るということを乙姫に伝えている描写がない。だから乙姫に説明責任はない。ということなのかもしれない。でも乙姫はしきりに帰らないように太郎の説得を試みている。これはアヤシイ。


乙姫はあと1日、あと1日と先延ばしにして太郎に帰ることをあきらめさせようとしていたのではないだろうか?


乙姫は知っていたのではないのか?「現世界に太郎の居場所はもうない」ということを。


でも乙姫は黙っていた。後ろめたくて言い出せなかったのか?それとも他に何か理由があったのか?


これこそが最大の疑問点でしょう。少なくとも俺にとってはそうだ。


これが『御伽草子』の浦島太郎になると、さらにこの疑問は大きくなるのである。


(つづく)