福島正則の「西上」(その4)

『福島太夫殿御事』の前後が史籍集覧でわかったので引用しておく。読点は適宜入れた。

「福島太夫殿御事」

(前略)

景勝越後より奥州え國替仕候に付三年在京御免に候、然共諸大名誓紙景勝一人不被致候、景勝登誓紙可有旨、家康公被仰越候得共、景勝返事三年在京御免にて罷登申間敷候返事に付、家康公より再三被仰遣候得共、兎角得心不仕候て荒々敷返事故、家康公御立腹、我等迎に可参との御事にて江戸へ御下り被成、諸大名景勝むほん仕候とて追々関東え下り被申候、家康公御先手被遊候、何も宇都宮迄御出陣被成候處に上方にて石田治部少輔むほん企候に付、家康公は私成仕置ふとゝき成儀にて御坐候とて、毛利殿お上り候て大坂御番被成候得と安國寺を使に遣し早速輝元大坂へ上り被申候、此旨宇都宮え聞へ、家康公被仰様々景勝を致退治候後上方え打向可申候、各大坂に妻子在之間、是より早々上方え御上り候得と被仰付候、其時福島左衛門太夫被申候は、私儀治部少輔と一味仕候筋目無御坐候、大坂へ妻子治部少輔に渡し人しちにては無御座候、たとへ串に指候共男のひけには罷成間敷候間捨候と申候て、惣領刑部是え召れ候間、家康公へ人しちに進候、是より上方へ御先手可仕候、上方にて御人数兵粮之儀、私太閤様より十万石、御代官所預七年分之米、尾州に納置候間、三十万石程と御用可罷立候、景勝義は先御捨、上方え御出馬御尤に奉存候と被申候、左衛門太夫様々被申候故、細川越中守殿、池田三左衛門殿、浅野紀伊守殿、田中筑後殿、堀尾信濃守殿、其外諸大名家康公御味方可仕と被申候、然共家康公上方え之御出馬跡より御登り可被成との義に付、井伊兵部殿御名代に御登せ被遊候、扨関東御先手左衛門太夫可仕旨に付、池田殿にも先手御望あらそい被成候、家康公被仰候は、太夫殿三左衛門殿一日かわりに先手仕候得と被仰付候、宇都宮より替り〳〵に清須迄被成候、清須にて一両日御評定にて八月廿二日にぎふ表え御出馬(後略)

再三書くけど俺は関ケ原合戦詳しくないんで通説とどこが異なるのかわからない。上杉景勝の誓紙が無いので家康が景勝の上洛を求めたというのは聞いたことが無い。「十人連判誓紙」に関わることだろうか?これらについては後で考える。


『福島太夫殿御事』が全て正しいと仮定して、そこから推理できそうなこと。
(1)小山評定(小山会議)があったのかということは「小山」という地名が全く出てこないので不明
(2)家康は諸将に「妻子がいるので早々に上洛しなさい」と言っている。一般に「進退自由」と言ったように言われてるけど「自由」ではなく「上洛しろ」と言ってる(正則のように断ればそれはそれでOKみたいだから「自由」とは言えるけど)
(3)上洛の目的は妻子がいるから(各大坂に妻子在之間)であって、大坂で何をしろとは命じてない。すなわち大阪で石田三成の味方になるか敵として戦うかは諸将の自己判断に任せられていると解釈できる。それについては「進退自由」といえる。
(4)家康は当初、徳川だけで大坂に打ち向かうつもりだった。
(5)正則の発言以後に方針が変わったが、家康は後から行くことになった。諸将の行動はあくまで諸将各自の判断で徳川軍とは別という意識があったからではないか?
(6)正則は上洛を拒否したが、諸将の前でとは書いてない。正則が拒否したという話を書状等で知って他の諸将も続いたとも解釈できる。
(7)三成らが敵対した報を聞いた時点では毛利輝元は中立の立場になるだろうと家康は予想してたのではないか?
(7)諸将を入洛させて、彼らが三成に従ったとしても、あくまで人質がいるからであり心から服属するものではないから、いずれ反三成の動きが出てくる。家康としては即座に大坂に向かわなくても勝算があったのではないか?まさに「鳴くまで待とう」で関東で時期を待つつもりだったのでは?
(8)宇都宮という地名が出てくるから福島正則が家康と面会したのは、宇都宮近辺(ただし書状の日付が19日ならその日に家康は江戸にいる)。「人数之儀者被上」という書状が届いたときの正則はさらに奥にいたと考えられる。正則の軍勢が正則より先に進んでいるのではなく、軍勢に「西上」を命じた上で、正則は軍勢の行軍よりも早く家康の居るところまで来いということではないか?それでも文書の解釈に破綻はこないように感じる。
(9) 上杉征伐が徳川単独で行うつもりだったところを諸大名が自主的に参加したもので、家康はリーダーではあるけれど、強制的な命令権が無かったように解釈できる。


なんてことを思う。なお『福島太夫殿御事』という史料がいつ成立したものか等、情報が見つからないし、研究者の間でどういう評価がされているのかわからないので、確かなことは言えないが信用できるのではないかと俺は思う。少なくとも『福島太夫殿御事』に書かれていることが正しいと見做して、先入観を取っ払って再検証してみる必要があるのではないかと思う。


(つづく)