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ネット中傷:民主党“標的”10万件 都知事選と参院補選−今日の話題:MSN毎日インタラクティブ

 統一地方選で今月実施された東京都知事選と参院沖縄選挙区補欠選挙を巡り、それぞれ8日と22日の投票日数日前から民主党や同党が支援した候補について 誹謗(ひぼう)する書き込みがインターネットの掲示板に集中的に張り付けられたことが分かった。書き込みは現在、検索サイトで計延べ約10万件がヒットし、ネットを舞台とした“中傷”としては、過去に例がない規模。短期間に張り付けが繰り返されていることから、組織的に行われた可能性があるとみて、捜査当局も情報収集に乗り出した。

沖縄補選のことはよくわからないが、都知事選については確かに候補者を批判する書き込みが数多く見られた。だが、ここで触れられているのは特定の書き込みらしい。「東京都の人は、ぜひ読んでみてください」で検索したら見つかる。俺は最近2ちゃんねるは実況板以外見ていないので、そういう書き込みがあることを知らなかった。しかし、知っている人は知っていただろう。それは、特定の職業に就いているとか、特定の地域に住んでいるとか、限定された人だけが知ることのできる情報ではない。


そういうことに対して、「書き込みがインターネットの掲示板に集中的に張り付けられたことが分かった」という言い回しは非常に違和感がある。一体誰が「分かった」というのだろう?主語が抜けている。この「分かった」という言い回しは新聞記事でしばしば見かけるものであるが、こう書いてある記事は、そう書く何らかの事情があるものとして注意が必要だと俺は思っている。常識的に考えれば「分かった」とは、「記者が分かった」ということだろう。ここで知りたいのは、記者が「分かった」ことと、「捜査当局が情報収集に乗り出した」こととの因果関係である。


可能性としてはどんなことが考えられるだろうか?
その1 当局が情報収集に乗り出したことが取材で分かったので、記者が書き込みのあることを「分かった」。
その2 記者が「分かった」ので捜査当局に取材したら、当局は既に知っていて情報収集に乗り出していた。
その3 記者が「分かった」ので捜査当局に取材したら、当局はそれで知って情報収集に乗り出すことになった。
どれであろうか?それはわからない。ここで、「情報収集に乗り出した」とはどういう意味なのかということを考えてみる必要がある。


公職選挙法というのは、あいまいなところがあって、何を書けばそれに違反するのかが微妙である。選挙期間中に選挙の話題をブログに書こうとするとき、どこまで書けるのかが非常に悩ましい。ある程度つっこんだ記事を書けば「公職選挙法に抵触する可能性がある」が、実際には選挙期間中に抵触するかもしれない記事がネット上に溢れているし、それにもかかわらず摘発されたという話は滅多に聞かない。違反したかどうかは最終的に裁判所が判断することであり、「自己責任」でやっていくしかない。


そういう状況であるから、捜査当局としても、その手の情報が寄せられたら、問題なしと断定できるはずもなく、「情報収集」に乗り出すことになるだろう。そして捜査員がグーグル検索するだけでも「情報収集」は「情報収集」である。このように考えれば、上記の書き込みだけではなく、選挙機関中にネットに書き込まれた文章のうち、かなりのものが、当局に通報すれば「情報収集」の対象として扱われることになるのではなかろうかと俺には思えるのだがいかがであろうか?そして「情報収集」はあくまでも「情報収集」であり、それが摘発につながるまでには長い道のりが必要であるように思われる。


何が言いたいかといえば、公職選挙法に抵触する可能性がある書き込みはネット上に溢れており、それについて捜査当局に訊ねれば、情報収集するとの回答が得られるのは、ごく当たり前のことでなかろうということ。逆に情報収集の必要なしとの反応があるほうが珍しいのではなかろうか?「捜査当局も情報収集に乗り出した」だけでは、そのへんの背景がわからないし、読者に誤解を与えることになるのではないだろうか?