メディアリテラシーが要求されると言ってる人のメディアリテラシー

メディアリテラシーが要求される記事の例。ほんとうに、読売新聞がレポートしたとおり「低炭水化物ダイエット」は体に悪いのか。- 勝間和代公式ブログ: 私的なことがらを記録しよう!!

 ご飯やパンなどの炭水化物の摂取が、長期にわたって少ない人は、多い人よりも死亡率が高まる可能性があるとする調査結果を、厚生労働省の研究班がまとめ、科学誌プロスワンに発表した。

低炭水化物ダイエット、死亡率高まる可能性 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)


さて、ここで最も重要なことは「死亡率が高まる可能性」とはどういう意味かということでございます。


「可能性」とは「〜かもしれない」ということですね。では「かもしれない」とは何が「かもしれない」ということでしょうか?


これは「あなたが低炭水化物ダイエットを実行すれば、あなたの死亡率が高まるかもしれない」という意味でしょうか?これをさらに詳しく言えば「低炭水化物ダイエットを実行すれば死亡率が高まるという結論が出たので、あなたが低炭水化物ダイエットを実行すれば、全員が死ぬわけではないので、あなたは例外かもしれないけれど、確率的にはあなたが死亡するリスクが高まる」ということになります。どうもそう受け止めている人が多そうな感じがいたします。そして勝間女史もそう受け止めていると考えて良いでしょう。


しかしながら「可能性」というのは別の意味である可能性もあります。というか、俺は最初からこの意味で受け取っていたし、科学論文としてはこっちの意味で使っている可能性の方が高いでしょう。すなわち「過去のデータを解析した結果、炭水化物の摂取割合が低いと死亡率が高まるという相関関係が存在する可能性が高い」という意味でございます。つまり「まだ確かなことは言えないけれど、どうも関係がありそうだ」ということであります。


勝間女史が

いずれにしても、ぜひ、読売新聞の記事を読んだ方は、へーーーー、とそこで止まるのではなく、論文の方も読んでみてください!!

と書いているので読んでみたところでも、

Conclusion

Low-carbohydrate diets were associated with a significantly higher risk of all-cause mortality and they were not significantly associated with a risk of CVD mortality and incidence. However, this analysis is based on limited observational studies and large-scale trials on the complex interactions between low-carbohydrate diets and long-term outcomes are needed.

結論

低炭水化物ダイエットは、全死因死亡率の有意に高いリスクと関連していた、彼らが大幅にCVD死亡率と罹患率のリスクに関連付けられていない。 しかし、この分析は、限られた観察研究に基づいており、低炭水化物ダイエットや長期アウトカムの間の複雑な相互作用の大規模試験が必要である。

とありますね。「結論」にこう書いてあるわけです。まずここをちゃんと理解する必要があるでしょう。


ところで、論文には

Given the facts that low-carbohydrate diets are likely unsafe and that calorie restriction has been demonstrated to be effective in weight loss regardless of nutritional composition, [36] it would be prudent not to recommend low-carbohydrate diets for the time being. Further detailed studies to evaluate the effect of protein source are urgently needed.

低炭水化物ダイエットはおそらく安全ではないと、そのカロリー制限にかかわらず、栄養組成物の減量に効果があることが実証されている事実を考えると、 [36]それは当分の間、低炭水化物ダイエットをお勧めしない方が賢明でしょう。 タンパク源の効果を評価するため、さらに詳細な研究が急務である。

と書いてあります。読売の記事にも

能登医長は「低炭水化物食は短期的には減量などに効果があっても、長年続けることには慎重になった方が良い」と指摘する。

とあります。能登医長はこの論文の執筆者です。読売が取材したんでしょう。あくまで「慎重に」であって「止めるべきだ」とは言ってません。詳細な研究をしてからでなければ、そこまで強く言えないからでしょう。


勝間女史は論文を読めとおっしゃいますが、論文を読んでも読売記事と違うことが書いてあるわけではございません。


また、

したがって、低炭水化物ダイエットが体に悪いからといって、たとえば炭水化物を繊維やフィトケミカルの少ない、読売の記事にあるようなご飯やパンなどでばりばり食べても、その人の死亡率はちっとも下がりません。

この文章は意味不明で「読売の記事にあるような」とは何かがよくわからないんだけれど、読売には「ご飯やパンをばりばり食べると死亡率が下がる」とは書いてませんよね。一方「低炭水化物ダイエットをやめてご飯やパンを食べれば死亡率が下がる(可能性がある)」という意味なら、それは論文が主張していることと違いません。炭水化物が死亡率を下げると書いてあるわけじゃありませんから間違ってません。


また、

「植物ベースの低炭水化物ダイエットは死亡率を下げるかもしれない」

とありますが、少なくとも論文にそんなことは書いてありません。

Subgroup analyses suggested that low-carbohydrate diets might increase the risk of mortality and CVD in animal-based dietary patterns whereas they might decrease the risk in plant-based diets.

を訳すと、

彼らが植物ベースのダイエットにおいて危険を減少させるかもしれないのに対して、低炭水化物ダイエットが動物ベースの食事のパターンで死亡率とCVDの危険性を増すかもしれないことを、サブグループ分析は示唆しました。

となります。「植物ベースのダイエット」が危険を減少させる(かもしれない)のであって、だったら「植物ベースのダイエット」をやればいいだけのことであって、なぜ低炭水化物ダイエットと組み合わせなければならないのか意味がわかりません。


ここで重要なのは「なぜ低炭水化物ダイエットをしなければならないのか?」ということです。


読売記事には、

 炭水化物を抑えた食事は、短期的には血糖値が下がり、コレステロールの値が改善するなど、心疾患のリスクを下げるとの報告がある。ところが、今回の解析では、長期間の低炭水化物食が、心疾患のリスクを下げる傾向は見られなかった。

とあります。低炭水化物ダイエットをする目的は人それぞれでしょう。美容のために痩せるのが目的ならば一番重要なのは低炭水化物ダイエットで痩せることができるのかということでしょう。それでたとえ寿命が縮まったとしても構わないという人だっているかもしれません。一方「心疾患のリスクを下げる」といった健康を目的として低炭水化物ダイエットをする人もいるかもしれません。ところがこの論文では「長期間の低炭水化物食が、心疾患のリスクを下げる傾向は見られなかった」とあります。すなわち健康を目的として低炭水化物ダイエットをすることは無意味(の可能性がある)ということです。


すなわち、論文には書いてませんが、勝間女史の言うように、もし「植物ベースの低炭水化物ダイエットは死亡率を下げるかもしれない」としても、そもそも健康を目的とする場合は「低炭水化物ダイエット」をする意味が無い(可能性がある)ということであります。


※ あと記事の最後に「いろいろな人が検証している」として二つの記事を紹介しているけれど、そのうちの一つは論文そのものへの批判であって読売記事に問題があるという話ではないし、もう一つの記事は自分のところでやっている「糖質制限食」とは関係が無いという記事であって、勝間女史の主張をサポートするものではありませんね。