謎のかぐや姫論

じぶり『熱風』にかいたかぐや姫論。「月の神話と竹」: 保立道久の研究雑記

 このプロットは高畑監督の独創ではあるが、空想ではない。益田勝実が論じているように、月にいる憂愁の仙女のイメージの原型は古くから中国で語られている姮娥(ルビ:こうが)にある。彼女は中国の英雄で強弓の達人として知られた羿(ルビ:げい)の妻であり、深く愛し合っていたが、結局、羿が月の女神・西王母から獲得した「不死の薬」を盗んで月に帰らざるをえなかったという。しかし、こうして月世界にもどった姮娥は夫と地上が忘れられず、月の都で永遠の憂愁の時を過ごしているというわけである。かぐや姫は、この姮娥の憂愁の姿にあこがれ、彼女に近寄りすぎたあまり、月世界にとって最大のタブーというべき姮娥の記憶を呼び覚ましてしまう。そして、自身「まつとしきかば、いまかえりこむ」という歌の記憶にとらわれ、その罪をつぐなうために、つらい運命をあたえられたというわけである。


「月の女神・西王母

王母は祖母の謂いであり、西王母とは、西方の崑崙山上に住する女性の尊称である。

西王母 - Wikipedia

崑崙(こんろん、クンルン、拼音: Kūnlún )とは、中国古代の伝説上の山岳。崑崙山(こんろんさん、クンルンシャン、拼音: Kūnlún Shān )・崑崙丘・崑崙虚ともいう。中国の西方にあり、黄河の源で、玉を産出し、仙女の西王母がいるとされた。仙界とも呼ばれ、八仙がいるとされる。

崑崙 - Wikipedia


さらに、西王母は「月の女神」のはずなのに、嫦娥が『「不死の薬」を盗んで月に帰らざるをえなかった』ってどういうこと?

淮南子』覧冥訓によれば、もとは仙女だったが地上に下りた際に不死でなくなったため、夫の后羿西王母からもらい受けた不死の薬を盗んで飲み、月に逃げ、蝦蟇になったと伝えられる。

嫦娥 - Wikipedia


嫦娥が月へ逃げたのは、嫦娥(元々月とは何の縁もゆかりもない)が、羿(ゲイ)が西王母から貰った不死の薬を、夫に無断で飲んだから西王母も夫もいない月へ逃げたという意味だと思うのだが…


※ なお『淮南子』覧冥訓には

譬若羿請不死之藥於西王母,姮娥竊以奔月,悵然有喪,無以續之。何則?不知不死之藥所由生也。是故乞火不若取燧,寄汲不若鑿井。

淮南子 : 覽冥訓 - 中國哲學書電子化計劃
とある。ここには嫦娥羿(ゲイ)の妻だとは書いてない。この神話において二人が夫婦だと断じてよいのかは俺にはわからない。また彼らがどこに住んでいるかも書いてない。羿(ゲイ)は太陽を射た男としても有名だが彼自身も太陽神だという説もある。


保立道久氏は歴史学者で『かぐや姫と王権神話』という著書もある。
保立道久 - Wikipedia


そういう人が初歩的な勘違いをしているというのは信じがたいことで、ちゃんとした理由があるのかもしれないが、少なくともこれを見ただけでは全く納得できない不思議なことを言っているようにしか思えない。