NHKの取材が杜撰だったと思う理由(その1)

これまでは相対的貧困の貧困線(可処分所得年173万月14.4万)以下の家庭の娘に果たしてあのような「浪費」が可能なのかという点を主に書いてきた。


それに加えて、女子高生が会議では「貧困だと感じた」という趣旨の発言をしているのに対し、NHKのニュースでは相対的貧困家庭として紹介されているが、単なる「貧困」には基準が存在しない(所得がいくらあろうが貧困だと感じれば貧困だろう)のに対して、「相対的貧困」には明確な基準があり、彼女が「貧困」だと言ったとしても、それが「相対的貧困」だとは限らないのであって、NHKはそれをどのようにして確認したのかという疑問がある。


片山さつき氏のツイッターによればNHKは

と回答している。また、

この問題、NHKはどういう見解なのか。J-CASTニュースが9月1日、改めて取材すると、広報局は、

「この企画ニュースは、食べるものもないというレベルの貧困でなくても、経済的困窮によって、高校生が希望する進路をあきらめざるをえない現実があるということを、当事者の女子高生自身が、神奈川県が主催するフォーラムで語ったということを中心にお伝えしたものです。クーラーがない事を含め、放送内容は事実に基づいています」

ということだった。

全文表示 | 「貧困女子高生」めぐりNHKに謝罪 ビジネスジャーナル「『回答』は架空」 : J-CASTニュース
J-CASTニュースの取材に対して回答している。


どちらも相対的貧困」(「6人に1人」「理由は家庭の収入がある一定基準に満たない貧困状態にあるからです」)については一切触れていない


片山氏のツイターは、女子高生本人が「経済的理由で進学を諦めなくてはいけない」ということを語ったのをNHKが伝えたに過ぎないと解釈できる。そもそも「貧困」という言葉さえ出てこない。「経済的理由で進学を諦めなくてはいけない」と言ったって、それは彼女の家庭が「貧困(主観的・客観的を問わず)」であることを意味しない。たとえ裕福な家であっても子供に教育費を使わない家ならば「経済的理由で進学を諦めなくてはいけない」ことになろう。しかもNHKは伝えただけなので、それが事実かということさえ明確ではない。NHKが認めたのは「女子高生がそう言った」ということだけだ。


それに対しJ-CASTへの回答は多少具体性がある。だがNHKは

6人に1人、厚生労働省がまとめた所得が、ある一定の水準に満たない貧困状態にある子どもの割合です。

(進学を諦めざるを得ない状況に追い込まれている)理由は家庭の収入がある一定基準に満たない貧困状態にあるからです。

とニュース言っているんだから「相対的貧困」である。しかし回答の「食べるものもないというレベルの貧困でなくても、経済的困窮によって、高校生が希望する進路をあきらめざるをえない現実がある」は相対的貧困」を連想させるが「相対的貧困」だと明言していない。「相対的貧困」だとは言っていないとごまかしができる説明である。しかも片山氏への説明と同じく「女子高生が語った」ということにすぎない。


片山氏への回答と違うのは、前者が女子高生が「経済的理由で進学を諦めなくてはいけない」と語ったのに対し、後者「食べるものもないというレベルの貧困でなくても、経済的困窮によって、高校生が希望する進路をあきらめざるをえない現実がある」と女子高生が語ったということだけだ(正直この後者の方は本当にそんなことを語ったのか?「食べるものもないというレベルの貧困でなくても」という「相対的貧困」の性格に受け取れなくもない言葉はNHが付け加えたんじゃないかという疑問があるが)。


これで明らかになったのは、NHKは女子高生の家庭が「相対的貧困」の定義(すなわち可処分所得173万以下)に該当するのか確認したのかについて言及することを避けているということだ。片山氏への回答だけではなく、J-CASTへの回答でも同様であるから、これは意識的なものであろう。


もちろん、これだけでは確実とは言い難いかもしれないが、疑問を持つには十分であろう。


しかし、NHKの取材が杜撰だったと思う理由はそれだけではない。


(つづく)