公務員の地位について

多数派であることのリスクについて (内田樹の研究室)
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橋下大阪府知事は、持論である大阪都構想に賛成の市職員を抜擢し、反対する市職員を降格するためのリスト作りを維新の会所属の大阪市議に指示した。
首長選の候補者が選挙に先立って公約への賛否を自治体職員の「踏み絵」にするというのは異例の事態である。
公務員が遵守義務を負うのは、憲法と法律・条例と就業規則だけのはずである。「大阪都」構想は、その当否は措いて、今のところ一政治家の私念に過ぎない。それへ賛否が公務員の将来的な考課事由になるということは法理的にありえまい。
まだ市長になっていない人物が市職員に要求している以上、これは彼に対する「私的な忠誠」と言う他ない。彼はそれを「処罰されるリスクへの恐怖」によって手に入れようとしている。
私はこの手法に反対である。

公務員の地位について、実のところ俺は良く理解してないし、多くの人も理解していないだろうと思う。


内田先生は、

公務員が遵守義務を負うのは、憲法と法律・条例と就業規則だけのはずである。「大阪都」構想は、その当否は措いて、今のところ一政治家の私念に過ぎない。それへ賛否が公務員の将来的な考課事由になるということは法理的にありえまい。

とおっしゃるいけれど、それじゃあこれは違法なのか?違法なら違法とはっきり書けばいい(違法でも構わないという橋下支持の立場もあるかもしれないけれど)。「橋下 降格 違法」で検索すると、違法行為だという記事がいくつかヒットするんだけれど、本当にこれは違法なのか?


俺は多分違法じゃないと思う。

第四十九条  任命権者は、職員に対し、懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分を行う場合においては、その際、その職員に対し処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない。
2  職員は、その意に反して不利益な処分を受けたと思うときは、任命権者に対し処分の事由を記載した説明書の交付を請求することができる。
3  前項の規定による請求を受けた任命権者は、その日から十五日以内に、同項の説明書を交付しなければならない。
4  第一項又は第二項の説明書には、当該処分につき、人事委員会又は公平委員会に対して不服申立てをすることができる旨及び不服申立期間を記載しなければならない。

地方公務員法


もちろん不服を申し立てた結果として、人事委員会又は公平委員会により不当な人事だと判断される可能性はあるだろう。記憶に新しいところでは阿久根市長の降格人事が公平委員会により不当と判断された(説明書不交付が判断理由)。


もひとつ記憶に新しいところでは田母神俊雄氏の懸賞論文問題。氏は幕僚長を解任されたわけだが、「公務員が遵守義務を負うのは、憲法と法律・条例と就業規則だけ」だという内田先生はどうお考えなのだろうか?また、この内田先生の主張を支持するアンチ橋下の人には左側の人が多いのではないかと思うが、その人達はどうお考えなのだろうか?


※ 内田氏は田母神氏の「言論の自由」という主張を認めていない。
日教組の”影響”と言論の自由について (内田樹の研究室)
だからといって、それで解任を正当化することは無理だろう。いや内田氏の頭の中では無理じゃないのかもしれないが。


※ところで内田氏は「反対する市職員を降格するためのリスト作り」と書いているけれど、毎日新聞の記事には「市幹部職員」とある。市職員には違いないけれど、なぜ「市幹部職員」と書かないのだろう?


※また「政治家の私念に過ぎない」とあるけれど、「リスト作りを維新の会所属の大阪市議に指示した」に過ぎないのだから私念に過ぎないことに問題はないのではないか?反対なら反対で構わないけれど、このあたり?と思う。


※なお俺は別に橋下支持者ではない。はっきりいって良くわからん。ま、大阪市民でも府民でもないし。


※引用した部分以外のところも突っ込みたいところがいっぱいあるけれど、後で書くかもしれないし、書かないかもしれない。


※タイムリーな記事
asahi.com(朝日新聞社):政権批判の経産官僚・古賀氏、結局は辞表 - 政治

公務員と士農工商

これは前にも書いたことがあるんだけれど、江戸時代に庶民が政治に口出しすることは禁止されていた、と言われる。


しかし考えてみると江戸時代の一揆は何なんだって疑問がある。お上は一揆を一方的に弾圧したと思ってる人もいるかもしれないけれど、実際はそうでもない。一体どういうことかと考えるに、ここでいう「政治」とは天下国家についての政治という意味じゃないかと思ってる。すなわち税金が高いとかいった庶民に直接関係する話ではなくて、外交政策とか、幕府の人事とか、税金の使い道とか。まあ税金の使い道などは現在の感覚では庶民に直結するといえるけれど。


で、なぜ庶民が口出ししてはいけなかったのかというと、普通に連想するのは「お上にとって都合が悪いから」ってことで、それはそうなんだろうけれど、俺は「家業に専念すべし」って道徳のせいでもあるように思われ、すなわち天下国家について考えるのは「士」の役割であって、農民は農業について、商人は商業について、職人はその職についてのことを考えれば良いのであって、他のことに関心を持つべきではないってこと。武士は武士で利殖について考えるのはいけないみたいな考えがあったみたいだし(実際はそうでもなかったという話もあるけど)。


ここまで全て推測であって裏づけがあるわけではない。


で、「士」というのは本来「武士」のことではない。
士 - Wikipedia
士大夫 - Wikipedia


士大夫の説明が興味深い。

彼ら士大夫は、自らの学識を持って出仕したという自負心からか、唐代以前に比べて自らの力をもって国家を支えるという気概を持っていた。そのことを表す有名な語として、范仲淹の「先憂後楽」がある。范仲淹は後世に士大夫の理想像として仰がれた人物であり、この語の意味は「天下の憂いに先立って憂い、天下の楽しみの後に楽しむ」という、天下国家を自らが背負うという意気込みが表れた語である(後に後楽園の名称の元となった)。宋4代仁宗期には、范仲淹を初めとして数々の名臣と呼ばれるものが登場し、政界で活躍した。その様は、朱熹によって『宋名臣言行録』に綴られている。


現在の日本は民主主義であり国民が主権者である。国民が政治に口出ししてはいけないということはもちろん無い。むしろ政治に関心を持たなければならないとされている。政治を批判するのは国民である。あるいは国民を代表する政治家であり、あるいは市民団体などである。彼らはその権利を所有している。では公務員はどうか?もちろん公務員も国民の一人であるからして、その意味では一国民として政府を批判する権利はある。しかし、政治家と違って国民によって選ばれたわけでもないのだから、それ以上の権限があるわけではない。


だが、公務員自身も、また一般人の公務員を見る目も「士大夫」として見ているようなところがあるんじゃなかろうか?


政府を批判する官僚を更迭するなどと聞くと「まるで封建主義みたいだ」なんて批判がある。ところが、その時その人は「殿様にあえて苦言を呈する家臣」みたいな封建主義的なものを理想としているんじゃなかろうかと思ったりする今日この頃。

少数の支持者しかいない政治的意見は過激?

多数派であることのリスクについて (内田樹の研究室)

私たちは「圧倒的多数が支持する政治的意見」は穏健で、「少数の支持者しかいない政治的意見」は過激であると考えがちだが、

そんな話は初耳だ。いや絶対に初耳だという自信はないが、少なくとも記憶としては全く頭に残ってない。大量のはてなブックマークの中でここに突っ込んでいる人がいないというのは、その人達にとってはそれが常識なんだろうか?


「過激な少数意見」というのはある。また「過激だから少数の支持しか得られない」というのもある。しかし、それと「少数意見は過激だ」というのでは全然違うでしょう。


しかし、まあ考えてみれば、それに該当するようなことはなくもない。どういうケースかというと「自分が正しいのに不当な理由によって迫害されている」と当人が考えているケースだ。


疑似科学陰謀論などのトンデモ系にはそれが多い。自分は迫害された被害者であり、悪と戦って勝たなければならないという使命感によって言論が過激化する。トンデモとはいえないようなリフレ派もそう(現在トンデモ化が著しいが)。相手が卑劣な手を使うなら(大抵が思い込みによるもの)、こちらも正当な手段だけではダメだみたいな感じで突っ走るみたいな。


だが、そういうケースもあるということであって、だからといって「少数意見は過激だ」ではない。


※ あと一応念のために言っておくけれど、この場合の「過激」というのは、言論のスタイルが過激だということであって、常識を覆すような斬新な主張や急進的な改革を求める主張などを「過激」と表現することもあるけれど、内田先生が言ってるのはそういう意味ではないでしょう。


そもそも一般的にそう考えられているとは思えないのに、そうだと決め付けて叩くというのは、いわゆる「藁人形論法」というやつでしょう。


もちろん世間では本当にそう考えられていて、俺の認識が間違っているのかもしれないという可能性もあるが、「少数意見 過激」で検索してもなかなかそういうのが見つけられないんですけどね。


※ まさかとは思うんだけれど、内田先生は本当に「過激」の意味を混同しているのかもしれない。たとえば内田先生が脱原発に賛成してるのを原発容認派が「過激ですね」と言ったのを、言論スタイルが過激だと言われたと受け取ったとか。いや、まさかとは思うんだが。