パイドロス

俺のブログの訪問者は相変わらず少ないのに、昨日書いた記事で紹介したページが、人気ブックマーカーにブックマークされたら、はてなブックマークの人気エントリーになっているわけで、大旦那の影響力はすごいなと思う今日この頃。


で、それに関連して、以前にも紹介したのだけど、ソクラテスがそういう「風潮」(神話の合理的解釈)について言及している部分を引用しておきます。

パイドロス それはぜんぜん気がつきませんでした。ところで、ゼウスに誓って、ほんとうのところを打明けてください、ソクラテス、あなたはこの物語を、ほんとうにあった事実だと信じていらっしゃいますか。


ソクラテス いやたしかに、もしぼくが賢い人たちがしているように、そんな伝説は信じないと言えば、当節の風潮に合うことになるだろうね。そして学のあるところをみせながら、「彼女オイテュイアがパルマケイアといっしょに遊んでいるとき、ポレアスという名の風が吹いて、彼女を近くの岩からつき落としたのである。彼女はこのようにして死んだのであるが、このことから、彼女がポレアスにさらわれて行ったという伝説が生まれたのである」とでも言えばよいわけだ。あるいは、アレスの丘からつき落した、と言ってもいい。なぜなら、もうひとつそういう伝説もあって、このイリソス川からではなく、アレスの丘からさらわれたとも言われているのだから。
 しかしパイドロス、ぼくの考えを言うと、こういった説明の仕方は、たしかに面白いにはちがいないだろうけれど、ただよほど才智にたけて労をいとわぬ人でなければやれないことだし、それにこんなことをする人は、あまり仕合せでもないと思うよ。なぜかというと、ほかでもないが、その人はつぎにヒポケンタロウスの姿を納得の行く形に修正しなければならないことになるし、さらにおつぎはキマイラの姿を、ということになる。さらにはまた、これと似たようなゴルゴやペガソスたちの群、そしてまだほかにも不可思議な、妖怪めいたやからどもが大挙して押しよせてくるのだ。もし誰かがこれらの怪物たちのことをそのまま信じないで、その一つ一つをもっともらしい理くつに合うように、こじつけようとしてみたまえ!さぞかしその人は、なにか強引な智慧をふりしぼらなければならないために、たくさんの暇を必要とすることだろう。

(『パイドロス』 プラトン著 藤沢令夫訳 岩波文庫


紀元前の人であるソクラテスがこう言っているわけだけど、桃太郎の鬼が渡来人なら、一寸法師の鬼についても同様の説明をしなければならないし、その他各地に残る鬼退治伝説についても説明しなければならなくなるでしょう。


まあ、やろうと思えばできないことはないですけどね。鬼的なものはいつでも、どこにでも存在していますから、何々を鬼に例えたのだと主張するのは難しいことではないでしょう。そしてソクラテスの言うように、そう説明すれば「学のあるところ」を見せることができるのでしょう。


で、このようにして「新しい伝説」が誕生することになるんでしょうね。

あるところに調査に行ったとき小町伝説を語り伝えている人を紹介してもらった。話を聞くと、どうも土地の古い言い伝えではなさそうだ。失礼とは思ったが、古老から聞いた話なのか、土地の古文書にあるのかと尋ねてみた。すると、村の言い伝えをもとに、足りないところは歴史の本から得た知識で補ったという。そして、ワープロで書いた原稿をくださった。「おそらく、これが小町伝説の真相だったでしょう」ということだった。

(『小町伝説の誕生 錦仁 角川選書


未来の子供が聞く、昔話「桃太郎」は、今とは似ても似つかぬものになっているかもしれませんね。

パイドロス (岩波文庫)

パイドロス (岩波文庫)

小町伝説の誕生 (角川選書)

小町伝説の誕生 (角川選書)