外資脅威論

現在、一番危険でやっかいな思想はこれだと思う。左側の人は何かと言えば「右傾化」を批判するが、これに関しては関心があまりないようだ。というか、これを唱える人は右にも左にも存在していて、場合によっては同じことを言っていることもある。しかも、一般オカルト信者だけが言っているのなら、まだいいが、影響力のある「文化人・知識人」にも存在する。そして多分政界にもそういう人がいると思われる。


外国資本排斥運動は別に日本に限ったことじゃないし、もちろん文化的な違いや、個別に悪質な企業に対する反発など、もっともな理由もあるには違いないだろうとは思う。しかし、知的と思われる人まで、あまり論理的とはいえない奇妙な陰謀論に嵌っているのをしばしば見るにつけ、古来より連綿と続く、異界への恐怖も背景にあるんじゃなかろうかと思ってしまう。


室町時代には南蛮人は人の生血(ワインのこと)を飲むと恐れられた。明治になっても、異国人は恐れられ、一揆が起きた。
例えば、広島県で起きた一揆では、
・「お上」から庄屋に桐箱が渡されているらしい、箱の中身はヤソ教の秘仏らしい、庄屋は太政官の手先だ。
・15歳から20歳までの女子や飼い牛が、全て外国に売り飛ばされる。その通達が内密に庄屋に届けられた。
などという噂が発生した。


また高知県では、洋式医院のベッドは、病人を寝かせるためのものではなく、人間を火あぶりにして、膏を絞り取るためのものだという噂、また血税一揆では、徴兵令で兵役義務を「血税」と称したために、百姓が外国に渡され生血を取られるという風評が立った。


また電線設置に関して、これは外国人のたくらみで、電線でもって体をグルグル巻きにして生血を吸い取るのだという噂があったそうだ。この異界の得体の知れない人が電線を使って人体を攻撃するという話は、スカラー波の某団体の主張と似ているなと思ったりする。


今となっては(というか当時であっても)バカらしい話ではある。これを新政府への抵抗とか、徴兵逃れのための口実と説明することも可能かもしれないが、俺は本気で信じていた人も多かろうと思っている。こういう異界人恐怖症が、日本人の深層心理に潜んでいたことが、明治維新以降の歴史にどんな影響を与えたのか、軽率に判断できないけれども、全く影響がなかったとはいえないだろう。そして、今でもそれが続いているらしいことの社会への影響も軽く見ることができないと思われる。