「淀殿」(福田千鶴 ミネルヴァ書房)

今読んでいるところ。面白い。でも、今俺が興味を持っている、歴史研究にはびこる陰謀論とういことでいうと、気にかかる部分があったので書いておく。

「大坂物語」は大坂の陣直後に徳川方の正当性を速報で喧伝するために作られたという政治的動機が指摘されており(「大坂物語諸本の変異」)、そうした文脈のもとで茶々が秀頼を甘やかしてだめにしたという話が作られた面は多分にしてあるだろう。

(p181)


まさに陰謀論。でも、現在でも、スポーツの試合の敗因、株価下落の原因、不況の原因、芸能人の人気が落ちた原因などなど、マスコミやブログやらでいろいろ論じられているんだけれど、それが必ず的確なものかっていうと、そんなわけがない。なんじゃこりゃってツッコミたくなるものはいっぱいある。でもそれは、分析能力が低いってことであって、そういうものに対して、これは陰謀だなんて言ってたら、それはそれで何なんだってことになっちゃうと思うんですよね。そりゃそういうのも中にはあるかもしれないけれど…



ところで「大坂物語」の該当部分が本当に「茶々が秀頼を甘やかしてだめにしたという話」なのか俺は多少疑問に思う。そういうことじゃなくて「生者必滅」「釈尊未兌栴檀之烟」「天人五哀」ってあるから、歌舞音曲に明け暮れる栄耀栄華から滅亡へと至ったのは(当人に責任があるわけじゃなくて)天魔の仕業であり、それも「定め」だったって話じゃないのかなあなんて。でも文学の素養がないからわからん。

秀頼公の御母儀なれば、別して御心ざし深くものし給ひて、故太閤神と崇められ給ふ後も、秀頼公に片時も離れさせ給ふ事なく、朝夕はたゞ上手といはれし女の猿楽、歌舞伎など云物を召して、舞い歌はせ、踊り跳ねさせ、世を世共思しめさで、月日を送らせ給ひしに、天魔波旬の勧め参らせけるか、いはれざる御謀反起させ給て、我身も秀頼公も、一煙りの灰となり給ひける業報のほどこそ、悲しけれ、生者必滅の習ひ、釈尊栴檀の煙をまぬかれず、天人つゐに五哀の日にあふといひながら、かけても思ひきや、秀頼公、同御ふくろなどの、かゝる憂き目にあはせ給はんとは、

※「天魔波旬」とは第六天魔王のこと。欲界最上位にいる魔王。仏道を妨げる。
※「釈尊栴檀の煙をまぬかれず」とは釈迦でも死を免れることはできないという意味。
※「五哀」とは不老不死であるかのような天女にも死があり、その前に出る五つの兆し(だと思う。「魍魎の匣」で聞いたような)


(追記)

番組で引用した文献は「台徳院殿御実記」。この時、正則が書いた手紙の実物は残っていませんが、これによれば「この度の秀頼の考えは、まさに天魔の所為とするべきである。速やかに反心を翻され、これまでの不義を謝せられるため、淀殿には江戸・駿府に参向して住居されるべきである」「どうか淀殿・秀頼公御母子が御心を改め、御過ちを悔いたまい、正に順い長く国家長久のお計らいあるべきである」と云う内容の諫書を送ったとしており、これを意訳したものです。

その時歴史が動いた