ネットでは日々新しい話題が登場する。早くもこの話題は消えかけていて、今さら書く意欲も失せてきたのだが、もう少し続ける。
これから書くことは、そもそも本当に「かわいそう」と言った畜産家の人がいたのかが、きっこの証言だけでは到底信じることができないのであるから、思考実験ということになる。
そもそも「かわいそう」の意味は。
〔「可哀相」「可哀想」は当て字〕気の毒なさま。同情を誘うさま。
⇒かわいそう【可哀相/可哀想】の意味 - 国語辞書 - goo辞書
辞書にはこれだけしか書いてない。
何が「かわいそう」で何が「かわいそう」でないのかは人それぞれというしかないだろう。民族や文化や宗教などによって違うだろう。それどころか、そういった特定の傾向を持つ集団の中でさえ千差万別ではないかと思う。
つまるところ、人が「かわいそう」だと思ったのなら、その人にとっては「かわいそう」なことなのだろうってことになる。それは違うだろうと言うのは筋違いというものではなかろうか。
ある人物が「かわいそう」だと思ったからといって、それを他人に押し付ければ問題が生じる。しかし、そうでないのならば、あなたは「かわいそう」だと思うのですねと受け取ればいいだけの話だ。
もちろん話のニュアンスとして「かわいそうだから止めてくれ」ということを暗に匂わせていることがある場合もあるだろう。そういう場合は可能ならば回避する努力をすべきだろうけれど、どうしようもないのであれば、いくらかわいそうでも仕方がない。それで相手が恨むのならば、問題は「かわいそう」だと思ったことではなくて、恨みを持つことだろう。
しかし、今回のきっこ発言はそういう話じゃないのだろう。「詭弁」という言葉を使っているところからみて、「かわいそう」だと思うことはおかしいと考えているのだろう。
き‐べん 【詭弁・詭辯】
1. 道理に合わないことを強引に正当化しようとする弁論。こじつけ。「―を弄(ろう)する」
2. 《sophism》論理学で、外見・形式をもっともらしく見せかけた虚偽の論法。
宮崎県の口蹄疫で牛や豚が殺処分されてる問題だけど、もともと人間が食べるために牛や豚を育て、肉の美味しくなる時期に屠殺場で殺し続けてきたことは何とも思ってない人たちが、「涙ながらに牛を殺した」とか「豚を殺した」という詭弁はやめて欲しい。
http://twitter.com/kikko_no_blog/status/14159032413
@solaio 「お金にならないから」という理由での涙なら理解できますよ。私が「詭弁」だと言っているのは、これまでに数え切れないほどの牛や豚を殺してきた人たちが、今回だけは殺すことを「かわいそう」と言っているのが理解できないだけです。
http://twitter.com/kikko_no_blog/status/14171769875
(再三書くけれど、最初は「かわいそう」とは書いていない。後で「涙ながらに」が「かわいそう」に変化した。ついでに読み返してみるともう一つ変化しているところがある。後述)
まず、これには一つ問題がある。「かわいそう」と言った人がいたとして、その人が、人間が食べるために殺すときには「かわいそう」と思っていないとどうして言えるのかということだ。「今回だけ」ときっこは書いているが根拠は示していない。しかし、これは思考実験なので、きっこの言うとおり「今回だけ」かわいそうだと思ったということにしておこう。
きっこの論理によれば、人間が食べるために殺すのも、口蹄疫問題で殺処分するのも、殺すことに変わりはないのであるから、今回だけ「かわいそう」だと言うのは「詭弁」だということになる。
確かにその通りだ。ただし、きっこの、人間が食べるために殺すのも、口蹄疫問題で殺処分するのも、殺すことに変わりはないという価値観に立った場合にのみ成立する論理である。
それ以外の価値観は存在しないのかといえば、そんなことはない。例えば家畜は人に食べられることが幸福なのであり、それ以外の理由で殺されるのは不幸だという価値観とか。家畜であっても「その時」が来るまで生きる権利があるという価値観だとか。
もちろん、そのような価値観を共有する必要は無い。ただ、自分の持っている価値観とは別の価値観が存在するのだという認識を持つ必要はあるだろう。その上で、その価値観を批判するというのなら有りだとは思うが。
きっこ発言を見る限り、そのような思考をしていたようには見えない。また一部のきっこ発言を擁護している主張にも、そのようなものが見受けられる。殺すことには変わりがないというのは「普遍的な真実」だとして疑うところがないのだろう。そこが最大の問題だと俺は思う。
ただし、きっこ発言を見ると、最初の「詭弁」から、後には「理解できない」に変化している。もしかしたら、きっこはそのことに気付いたのかもしれないなんて思ったりもする。