フィリピン人介護士の受け入れ(内田樹先生のブログから)

外国人看護師・介護士の受け容れがアジェンダにのぼったのは、小泉政権のときである。
日本製品の輸出促進のための関税撤廃を進める見返りとして、フィリピンのアロヨ大統領から要請されたことに端を発する。

「開かれた国」であることのコスト (内田樹の研究室)


今日7月8日付毎日新聞の記事に、

 小泉純一郎首相(当時)がアジア欧州会議首脳会議に向かう前日のこと。小泉首相ヘルシンキでフィリピンのアロヨ大統領(同)との首脳会談を予定。その目玉が日比のEPA署名だった。

 日本は日本製品の輸出拡大につながる関税撤廃を進める見返りに、フィリピン人看護師・介護福祉士候補者受け入れに同意した。関係省庁間で調整を繰り返し、受け入れ枠は「(年間)100人レベル」で内定していたが、首相出発前夜に突然ひっくり返され、ひとケタ多い「(2年間で)1000人」となった。関係省庁には「官邸の意向」とだけ説明された。

開国漂流:追跡・外国人ケア人材問題/上(その1) 合格率1.2%の衝撃 - 毎日jp(毎日新聞)
とあるんで、内田先生はそれを見てこの記事を書いたんだろう。


というわけで間違っているとは言い切れないんだけれど、ただし、内田先生は

日本製品を売りたいという日本側のニーズと、海外に雇用機会を拡大したいフィリピン側のニーズの「等価交換」から話は始まった。

と書いているけれども、毎日の記事にそれは書いていない。『国を開く』とか書いているので、そうイメージしたということだろう。


しかし、俺はこれについて違った見解を持っている。


米国は毎年「人権報告書」を作成しており、日本についても慰安婦問題などが取り上げられている。それと同時に現在の問題として「人身売買」が取り上げられたことでも話題になった。

 日本国内への女性や少女の人身売買が問題となった。主としてタイ、フィリピン、および東欧諸国の女性や少女が、性的搾取および強制労働を目的に、日本国内へ売買された。これより人数は少ないが、コロンビア、ブラジル、メキシコ、韓国、マレーシア、ビルマ、およびインドネシアの女性や少女も、日本へ人身売買された。日本は、中国からの不法移民の目的地でもあり、犯罪組織によって人身売買された中国人が、性的搾取あるいは搾取工場やレストランでの契約労働のために、債務によって束縛された。政府の報告によると、一部の人身売買業者は、協力を強制するために、殺人や誘拐という手段を使った。

2004年国別人権報告書 − 日本


この報告書などの批判を受けて、日本はどうしたかというと、

 2005年以降、日本はフィリピン人ホステスに対する興行ビザの発給を事実上停止した。米国から「人身売買の温床」との批判が出たからだ。その結果、年に10万人近く来日していたフィリピン人女性が出稼ぎの手段を失った。

 出稼ぎの送金に依存するフィリピン経済にとっても影響は大きい。つまり、介護士の受け入れには、来日を制限したホステスの“代わり”という意味もあった。

ホステス代わりにされたフィリピン人介護士 【日経ビジネスオンライン】「ユニオン」と「労働ニュース」アーカイブ


当時のフィリピンでは稼ぎ口がなくなるということで、日本大使館に抗議デモがあった。

 「私たちは芸能人。売春婦でない。人身売買の被害者ではない。日本に行かせて」−。昨年の入国制限発表以降、マニラの日本大使館前などでは、ARBを持つ女性がこんなプラカードを掲げたり気勢をあげるなどしてデモ。3000人規模もあり、規制緩和などを訴えている。

 フィリピンで80万人が影響を受けるとされ、同国政府も外貨獲得手段を失うことを懸念。昨年末には外務、労働雇用両省の事務次官を日本外務省に派遣し、「国の経済に与える打撃が大きい」と5年間の猶予を要請。アロヨ大統領が今月、インドネシアジャカルタの国際会議で小泉純一郎首相に直談判し、緩和措置を求めるなど比国全体に波紋が広がっている。

フィリピン人の興行 visaでの日本入国問題を考えるブログ


というような事情が背景にあったことを見落としてしまっている。つまり、「雇用機会を拡大したい」というよりは「雇用機会が減少する代償」としての介護士の受け入れではないかと思うのだ。


(それにしても、これ以外のことも激しくツッコミたいところがいくつもあるのだが、ありすぎてツッコミきれない)