情報強者

山本弘のSF秘密基地BLOG:鼻血効果
それにしてもこの記事はつっ込みたいところが満載だ。

 地震の前兆現象を見たという報告もいろいろある。
 僕がいちばん笑ったのは、「地震の前日の夕焼けが赤かった」というものである。

 夕焼けは赤いよ!

そりゃそうだ、夕焼けは赤いに決まってる。それを地震の前兆だという人間が実際にいたとしたら、相当なおっちょこちょいだ。落語ネタになる。こんなことは近代科学が生まれる遥か以前の、陰陽道が広範に受け入れられていたり、王の徳の有無が天変地異に影響すると本気で考えられていた時代でさえ、こんな話をしたら馬鹿にされる。


ちょっと信じられない話だが、実際にあったというのなら、あったのだろう。しかしこれはトンデモというよりは単なるバカだ。そんな話をすることにどんな意味があるのだろうか?


一般的によく聞く話は、地震の前に異様な現象が起こったという話だ。そういう話をすれば良いのであって、こんな究極におバカな話をする必要などないのだ。批判する対象の尤も核心的な部分を批判するべきであって、対象の中でも特異なものを選んで攻撃するのは愚策である。そもそも「地震の前日の夕焼けが赤かった」だって、本当にそんなことを言った人がいたとして、その人が言いたかったのは「夕焼けが異様に赤かった」という可能性だってある。あまりにも赤かったので、「赤かった」と口にしてしまったかもしれないではないか?そういうことは良くあることだ。「カラスが群れをなして飛んでいるのを見た」も同様だ。


そういう重箱の隅を突付くようなことをしないで本筋、すなわち地震の前に異様な現象があったというような話について批判すべきだ。


もちろん、批判は既に用意されている。そういう現象は日常的にはないかもしれないが無いことは無い。そういう現象があって記憶に残ったとしても、その後に何事も起こらなければやがて忘れられる。しかし大地震のように大事件が起きた時には、忘れられずに記憶されて因果関係があるかのように感じられる。みたいな。


例の東京新聞の記事でも「普段は滅多に鼻血を出さないんですけど…」という母親の証言がある。


これは、この子が普段から鼻血を出す子だったけれど、原発事故以前には母親が気付かったという話だろうか?そういう可能性もあるけれど、母親の言ってることが正しいという可能性の方が高いと思われる。


普段滅多に鼻血を出さない子が原発事故以後に鼻血を出すようになることは十分有り得ることだ。ただし、普段滅多に鼻血を出さない子が鼻血を出すようになるのは、原発事故があろうとなかろうと起こりえる話であって、事故との因果関係はないと考えて間違いないだろう。


これは、「夕焼けが赤かった」のように誰でも体験できるものではなくて、そういうことが起きる子もいれば、起きない子もいる、全体としてみれば「たまたま」だけれど、個人としてみれば「奇跡」になるというパターンでしょう。


そもそものボタンの掛け違いは「鼻血を出す子供が最近になって急増した」という根拠の不確かな情報を確認もせずに、事実として受け取ってしまっているらしいということで、デマに騙されていないと思っているのだろうが実は騙されているのではないかというトホホな話。


※周囲に子供が一人もいなくても、いくらでもそんな話はでっち上げることができますよね。


※そもそも(錯誤にせよ)鼻血を出す子供が増えたという情報はどういう手段を取れば手に入れることができるのか?自分の子供が原発事故以降に鼻血を出した(と認識した)というだけでは「増えた」かどうかわからない。近所でもそういう話があるというのなら確かに増えたと認識することもあるだろう。しかしそういう話で確認可能な情報は今のところ知らない。つまり、いかにもありそうな話ではあるけれど、本当にあった話かどうかわかりようもない。