天孫降臨神話の真実(その8)

天孫降臨神話の真実(その7)のつづき


既に書いたことだが天岩戸神話は「招日神話」と呼ばれるもので世界的に流布している。しかし、中国の「招日神話」には必ず太陽を射る話(射日神話)がセットになっているにもかかわらず、天岩戸神話はそれを欠いている。


一方、ギリシャ神話のデーメーテールは冥府の神ハーデースに娘を犯され連れ去られたことに怒り放浪したために大地が荒廃したとする。スサノオは「根の国」に行ったとされるので「冥府の神」との類似があり、また高天原スサノオが暴れてワカヒルメが梭(ひ)で身体を傷つけて死んだというのは女性器を傷つけたのだと推測できるので類似している。また放浪の途中、エレウシースに至ったとき、領主ケレオスの館でイアンベーが冗談を言って笑わせた(性器を露出したともいう)という逸話はアメノウズメを連想させる。


アルカディア地方の伝説だとデーメーテールは弟のポセイドンに犯された怒りで洞窟に籠もったというのでさらに似ている。ポセイドンは言うまでもなく海神だが、スサノオも『古事記』によればイザナギから海原を治めよと命じられている。


したがって、この神話が良く言われる南方系なのかは怪しい。


だが、最大の問題は、なぜ「招日神話」がスサノオの英雄物語の中に挿入されているのかという問題だ。一つには上に書いたように、デーメーテールとポセイドン姉弟の諍いという神話との類似性が考えられる。しかし、そうだとしても(ポセイドンとスサノオに神格の類似があるものの)スサノオ貴種流離譚とポセイドンの神話との関係がよくわからない(俺はポセイドンの神話に詳しくないので類似点があるのかもしれないけれど)。


ところで、なぜ「招日神話」がスサノオの英雄物語の中に挿入されているのかという問題は、なぜイザナギイザナミ神話と天孫降臨神話の間に「招日神話」が存在するのかという問題でもある


この問題は二つの側面を持つ。


なぜイザナギイザナミ神話と天孫降臨神話の間に「招日神話」が存在するのかという問題を解決しなければ、なぜ「招日神話」がスサノオの英雄物語の中に挿入されているのかという問題は解決できないと俺は考える。


(つづく)