「西上」とは何か?(その6)

「西上」があるなら「東上」があり、また「西下」があって「東下」があるはずだ。


この中で一番有名なのは「東下」だろう。

都から東の方へ行くこと。京都から東国へ行くこと。あずまくだり(大辞林 第三版)

では「西下」は?原理的にはありえるが、俺には耳慣れない言葉だ。辞書には載ってる。

都(東京)を出て西方へ行くこと。(大辞林 第三版)

「東下」は「京都から」と説明してるのに、「西下」は「都(東京)を出て」という説明。かつての都は京都だから、その時代の「西下」は「京都から」だが、その説明は無い。もちろんこれは国語辞書であって古語辞典ではないので、そうなってるのかもしれない。「京都から」という意味の「西下」という使用例もあるのだろうとは思う。


だが、「東下」と「西下」では圧倒的に「東下」の方が有名ではなかろうか?あくまで推測だが、それは「東に下る」ということには特別な意味があったからではないか?たとえば、光源氏が京都から西の須磨に行き隠居する。あるいは菅原道真が西の太宰府に左遷される。これらは「西下」だろう。華やかな都の生活から田舎暮らしになる寂しさがあるとはいえる。しかし「東下」の場合は単なる田舎ではなく、そこに「東国=野蛮」のイメージが付加されるのではないか?それゆえに「東下」は「西下」よりも強く印象付けられるのではなかろうか?そんな風に俺は思うのだ(使用例を検証したわけではないので的外れ化もしれないが)。


※ ところで、昔の「東下」は「京都から」だが、今なら「東京から」になる。だが現代人は「東下」という言葉を使わないだろう。それは地理的に見て東京の東といえば千葉県か、せいぜい茨城県しかないからだろうか?それなら東北や北海道に行くのは「北下」かといえば、逆に「北上(ほくじょう)」で、これはもちろん地図で北が上だから。東京から東や北に行くのは「方角+下」の単語が使用されない(と思われる)が、西に行くときは「西下」という言葉がある(ただし、いまどき使う人は超少数であろう)。


次に「東上」。

西の地方から東方の都に行くこと。普通、東京に行くことをいう。(大辞林 第三版)

当然、昔は中国・四国・九州地方から京都に行くことが「東上」だが、これもあまり聞かないのは俺が無知だからか。


次に「西上」だが、既に書いたように辞書には載ってない。


あくまで俺の印象だけれども、昔から「西上」「東上」「西下」という言葉はあったかもしれないが、頻繁に使われだしたのは尊王思想が高まった江戸末期から明治にかけてではないかというように感じられる。いや間違ってるかもしれないけど。これを解説したものは見つけられなかった。


(つづく)


※ なお東武東上線の「東上」は東京と上野(群馬)という意味。