「日経メディカル」「判例タイムズ」読み較べ(その2)

日経メディカル 2007.8

そもそも、乳癌手術の際の説明は、患者の自己決定に必要な情報を提供するために行うものです。医師の夫がおり、書籍で調べて病院を訪れている患者が、医師からこれだけの情報を得て自己決定ができないなら、他にどんな情報があればよかったのかと強い疑問がわいてきます。

判例タイムズ №。1235

したがって、前示のとおり、被控訴人医師らは、控訴人に対し、乳房温存療法の適応がないと判断した理由について詳細な説明をすることはもちろんのこと、被控訴人医師らからみれば適応外とされる症例でも乳房温存療法を実施している医療機関の名称や所在を教示すべき義務があったというべきである。そして、このことは、控訴人自身、乳房温存療法について被控訴人丙山の著書を読んで相当の知識を有し、また、医師である控訴人の夫から相当の医学的情報を知りうる立場にあったとしても、被控訴人医師らは、後記エ(ア)のとおり乳癌治療の専門家として、患者である控訴人と比べ、圧倒的に高度の専門的知見を有している以上、被控訴人医師らの上記説明義務を免れさせるものではないというべきである。

日経メディカル 2007.8

さらに裁判所は、乳癌を「精神的苦痛を重視すべき特異な疾患」として考えていますが、現在では形成外科の進歩で、形態的にはかなりの再建が可能ですから、乳房切除術への「偏見」自体が誤ったものといえるでしょう。医師は乳房再建術についての説明を行い、患者に勧めています。

判例タイムズ №。1235

(4)乳房即時再建術の説明義務違反の有無
(略)
控訴人は、本件手術を受けるに当たり、乳房再建術という療法の存在を知っていたが、被控訴人乙原に対し同手術を希望することを伝えていなかったこと、被控訴人乙原も、本件手術に当たり、控訴人が乳房再建術を強く希望していることを知らなかったため、控訴人に対し乳房即時再建術の説明をしなかったが、本件手術後、控訴人が乳房切除により精神的に衝撃を受けている様子をみて、控訴人に対し、二次(期)的乳房再建術を勧め、同手術を積極的に行っている聖マリアンナ大学形成外科の酒井成身医師を紹介したことが認められる。
したがって、被控訴人乙原が、本件手術を実施するに当たり、控訴人に対し乳房即時再建術の説明をしなかったからといって、同人に説明義務違反があるということはできない。