民間事故調とマスコミ(その5)

この件に関しては書きたいことが多すぎる。まだ続くんだ。


次に下村健一氏の件。下村氏はツイッターで発言の趣旨が違うと主張した。だがそれが事実だという証拠はないと思われる。一方「民間事故調」の方にも証拠があるという情報は今のところ無い。すなわち言った言わないの水掛け論になる可能性が高い。


※ これは去年あった議員や官僚の不適切発言問題と同質。話が横道にそれるが、この問題ではネットでマスコミ批判が猛烈にあった。しかし本当に言っていないのであれば言っていないと貫き通せばいいのであって、それで更迭や辞任するのはマスコミや世論が悪いとは言い切れないと俺は思う。


言った言わないの水掛け論ではあるけれど、現時点で本人がそんなことは言っていないと言っている以上は報告書の信頼性が揺らぐことは避けられない。これに対抗するには「民間事故調」は証拠を提出しなければならない。そもそもそうした種類の発言を報告書の主張の根拠にすることの是非という問題がある。本当にそう言っていたとしても撤回される可能性があるから報告書に載せるべきではないという考え方もあるとは思うけれど、そうとも言い切れない。結構難しい問題だとは思う。第三者の証人等がいることが望ましいとは思う。


まあ、この件に関してはおそらく下村氏の言い分が正しいのだろう。ただし脅迫されて前言を翻したのだみたいな陰謀論が発生することは避け難く、この手の調査をするときには後で問題にならないような何らかの手段がないものかと常々思う。聞き手が歪曲する危険があるのはもちろん、発言者がその欠点を利用して巧妙にマスコミを罠にかける工作活動をすることだって可能であることにも留意しなければならない(たとえば意図的なリークとか)。


ところで、下村氏はツイッター

民間事故調が一昨日公表した、原発事故の検証報告書を巡る報道…ツマミ喰いは各メディアの自由だけど、《正しく認識せねば、正しい再発防止策は導けない》という意味では、この全体イメージの歪み方は本当にマズい。同事故調に全面協力した者の1人として、明日以降、順次ここでコメントしたい。
ken1shimomura 2012/03/02 01:17:47

と発言したという。しかし俺が思うにこれは「ツマミ喰い」ではない。

 官邸の現場への介入が原子力災害の拡大防止に役立ったかどうか明らかでなく、むしろ無用の混乱と事故が発展するリスクを高めた可能性も否定できない。

【原発民間事故調報告書】報告書要旨+(2/6ページ) - MSN産経ニュース

 菅首相の個人的資質に基づくマネジメント手法が、現場に一定の影響を及ぼしていた。行動力と決断力が頼りになったと評価する関係者もいる一方、菅首相の個性が政府全体の危機対応の観点からは、混乱や摩擦の原因ともなったとの見方もある。菅首相のスタイルは、自ら重要な意思決定のプロセスおよび判断に主導的役割を果たそうとする「トップダウン」型へのこだわりと、強く自身の意見を主張する傾向が挙げられる。

【原発民間事故調報告書】報告書要旨+(3/6ページ) - MSN産経ニュース


下村氏自身も

民間事故調/6】この部分、他の証言も総合して、報告書はこうまとめている。「菅首相の強い自己主張は、危機対応において物事を決断し実行するための効果という正の面、関係者を委縮させるなど心理的抑制効果という負の面の両方の影響があった。」 この評価、私も同感。《以下明日以降》
ken1shimomura 2012/03/04 00:55:58

と書いている。


「首相がそんな細かいことを聞くのは、国としてどうなのかとゾッとした」という発言が報告書において「正の面」「負の面」どちらの根拠として採用されているのかといえば「負の面」であると受け取るのは当たり前のように思われる。この発言で下村氏の発言の真意が理解できたらそっちの方が驚きだ。


この発言の前後に受け手が「誤解」するはずがない説明が付されているというのなら話は別だが、それなら下村氏はその点を強調すべきだ。それがなされていないのは、そうした説明が無かったか、それとも受け手の「誤解」ではなくて報告書自体が「負の面」の根拠として下村氏の発言を採用した可能性が高いと考えられる。


下村氏はメディア批判をしているが、「誤解」を生むような表現のある報告書(あるいは報告書自体が誤解している可能性)についての批判をしていない。それは下村氏が報告書自体には問題が無いと考えているからではないかと思われるが、下村氏のツイートだけで報告書自体に問題が無かったというには説得力が欠けている。