第145回国会 衆議院運輸委員会

平成11(1999)年法律第48号 道路運送法の一部を改正する法律の衆議院運輸委員会での質疑応答より抜粋


衆議院会議録情報 第145回国会 運輸委員会 第5号

 続きまして、道路運送法の一部を改正する法律案の提案理由につきまして御説明申し上げます。
 一般貸し切り旅客自動車運送事業は、観光のほか、修学旅行や各種のイベント輸送等のさまざまな形態の輸送サービスを提供し、これまで国民に広く利用されてきたところでありますが、近年、少人数での旅行の増加に対応した車両の小型化等ますます多様化する利用者ニーズに適切に対応していく必要性が高まっているところであります。
 このような状況を踏まえ、一般貸し切り旅客自動車運送事業について、需給調整規制の廃止を初めとする規制緩和等を通じて、事業者間の競争を促進し、多様なサービスの提供や事業の効率化、活性化を図ることが求められているところであります。
 一方、輸送の安全の確保は、旅客自動車運送事業にとって引き続き最も重要な課題であることから、安全規制については、不断に見直しを行う必要があります。
 このような趣旨から、このたびこの法律案を提出することとした次第であります。
 次に、この法律案の概要について御説明申し上げます。
 第一に、一般貸し切り旅客自動車運送事業に係る参入について、免許制を許可制とし、輸送の安全、事業の適切性等を確保する観点から定めた一定の基準に適合していれば参入を認めることとし、その事業の開始が輸送需要に対し適切なものであるか否か、事業の供給輸送力が輸送需要に対し不均衡とならないものであるか否か等についての審査、いわゆる需給調整規制を廃止することとしております。
 第二に、一般貸し切り旅客自動車運送事業に係る運賃及び料金の設定または変更について、認可制から事前届け出制に改めるとともに、運輸大臣は、届け出られた運賃または料金が一定の事由に該当するときはこれを変更することを命ずることができることとしております。
 第三に、一般貸し切り旅客自動車運送事業に係る休廃止について、許可制を事後届け出制とすることとしております。
 第四に、旅客自動車運送事業の輸送の安全の確保を図るため、運行管理者の権限の明確化等を行うこととしております。

衆議院会議録情報 第145回国会 運輸委員会 第7号

○米田委員 まだ時間が多少ありますので、もう一点ちょっと伺っておきます。
 貸し切りバス事業者は、データを見ると、現在、赤字事業者が大変多いわけですね。そういう中で、実際に参入規制及び運賃料金規制の見直しによって自由競争が加速化した場合にどういう状態になるのだろうか。寡占化のおそれはないのかどうか、あるいはまた、逆に、この業種の態様からして、小規模だけれどもどんどん新規参入がふえるのか、その辺の見通しの大筋について、最後にひとつお答えをお願いいたします。
○荒井政府委員 貸し切りバスの事業者は今千九百者ぐらいございますが、黒字が約四三%、赤字が五七%という状況でございます。
 事業規模別の赤字の傾向でございますが、限られた資料でございますが、赤字の傾向に事業規模による差は顕著なものは認められません。ただ、赤字になっている原因がマーケットの低迷、輸送人員は変わりませんが、営業実収は下がっておるということでございます。
 今後、参入がより自由になった上での営業の形態あるいは事業規模の変化等はなかなか予想しにくいものでございますが、今の事業の流れからいきますと、数の多いのは十一両から三十両のあたりが大変多うございまして、貸し切りバスに適した事業規模あるいは顧客との関係というものがある程度あるものと思われます。
 以上でございます。

○岩浅委員 今回の改正案では、貸し切りバス事業への参入に当たっては、需給調整規制が廃止されまして、輸送の安全や事業の適切性確保等の観点から見た基準により参入を許可するものとされておりますが、需給調整以外の審査基準については現行法と比べてどうなるのか。また、事業計画の審査においては、最低車両数規制、営業区域規制は引き続き残されておりますが、これらの規制を引き続き存続させる理由は何かということを伺っておきたいと思います。
○荒井政府委員 お答え申し上げます。
 貸し切りバスの今後の審査基準でございますが、貸し切りバスは運行形態といたしまして、大変遠方に行かれる、あるいは早朝、深夜の発着、帰着ということがありますし、夜間運行などもございますので、安全につきましてはとりわけ重要な審査事項でございます。
 現行の輸送の安全確保に関する事項につきましては引き続き定めるということを想定しておりますが、さらに詳細な審査基準について、この法が成立後、具体的なルールを確立したいということでございます。その際も、輸送の安全確保が十分に担保されるようなことを念頭に置いて、当然でございますが、ルールを定めたいと思っております。
 さらに、最低車両数規制、営業区域規制につきましては引き続き残されておるわけでございます。最低車両数につきましては、運行管理、整備管理、事故発生時の対応等が適切に行われる必要がございますので、その際には、事業規模を確保するという観点から最低車両数規制を行う必要があるとされておるものでございます。
 また、現在の事業区域規制でございますが、輸送の安全確保の観点から、自動車の営業所への帰属性ということ、その際、運行管理の適切な実施を担保するということから、営業区域を各県単位ごとに置くというような考えで引き続き存続させることになっておるものでございます。
○岩浅委員 貸し切りバスの契約形態を見ますと、利用者と貸し切りバス事業者との直接契約によるものは少なく、旅行業者と貸し切りバス事業者との契約によるものが大半でございます。平成六年度の数字では、貸し切りバス事業の営業収入のうち旅行業者扱いによるものの比率は全国平均で七七・五%に達しておりまして、特に沖縄や九州では九〇%近い数字になっております。実態的には貸し切りバス事業者が旅行業者の下請の立場にあることが多いと思われます。
 今回の改正では、運賃・料金の設定、変更については、これまでの認可制から事前届け出制に変更されることになっておりますが、確かに、サービスの多様化という観点から考えますと、運賃・料金についても規制緩和は時代の流れである、これは私も異論はないところでございます。
 しかし、現在の認可制のもとでも、上下一五%の範囲内で決定する幅運賃制がとられてはいるものの、現実には下限の一五%は当たり前で、さらにそこからのダンピングが横行しており、認可運賃とは名ばかりというのが実情と伺っております。特に長引く不況により貸し切りバスの需要が落ち込んでいることに加え、旅行会社のセット商品の値下げによる貸し切りバスコストの削減が事業者への値下げ圧力となっておる。
 こうした状況を考えますと、認可運賃から届け出運賃への変更は貸し切りバス事業者の立場をますます弱いものにするのではないかと懸念されておりますが、どうお考えになっておるか。少なくとも、事業者が基準運賃を決める際の参考指標となるような適正原価を地域ごとに示すべきではないかと思いますが、この点、いかが考えておられますでしょうか。
○荒井政府委員 貸し切りバスの運賃のお問い合わせでございます。
 貸し切りバスの契約形態、旅行業者との関係の契約が大変多い実情にあるのは今御指摘のとおりでございます。
 その際、運賃の設定でございますが、貸し切りバスは需要が季節とか曜日の波動が大きかったり、需要が多様でありますので、基本的には事業者が弾力的な運賃を設定する必要があろうかと思います。そのために、認可制というかたい運賃制度から事前届け出制に改めることが、利用者保護や公正な競争の促進あるいは需要にマッチした運賃の弾力的設定ということが可能になるものと考えております。
 ただし、需要の波動が著しいという反面、著しく高い運賃が設定されたり、ダンピング運賃の設定が行われるというような可能性もございますので、問題のある運賃の設定に対しては運輸大臣が変更命令を行うことができるということとしておるところでございます。
 その際、日々変動するマーケットに適応した運賃を定める際の参考指標となるような指標を公表することはどうかというお考えでございますが、大変有力な、有効な考え方ではないかと拝聴した次第でございます。特に、事業者がマーケットの状況がわからない、情報が入手できないような事情にあることも結構ございますので、運賃設定の参考指標になるようなデータの収集と公表について、今後前向きに検討を行っていきたいと考える次第でございます。
○岩浅委員 ぜひ参考指標というものを考えていただきたい。前向きな御答弁をいただきまして、ありがとうございました。
 次に、貸し切りバス事業者は、一部大手を除いてほとんどが中小企業でありまして、単に参入規制を廃止して認可運賃を廃止するだけでは、業界全体として競争原理のプラス効果が十分にあらわれるのか不安も残ります。経営の不健全化や安全規制等を遵守しない事業者の増加を招き、その結果、利用者の安全確保に重大な問題も生じかねないのではないかと思います。
 事業参入後の安全確保と適正な事業運営や利用者保護について、これまで以上に体制の強化が必要と考えますが、この点についてどうなっておるのか、伺いたいと思います。
 また一方で、貸し切りバス業者にとって公平な競争が可能となり、その経営努力が報われるような環境整備が必要でございます。そのためには、まず旅行会社と貸し切りバス事業者との関係是正が図られなければならないと思います。答申の中でも、「両者間の話合いの場を設けることにより、直接の利用者である旅客の立場に立って協議が進められることが必要」とうたわれておるところでございますけれども、具体的に話し合いの場としてはどのようなものを想定されておるのか、伺っておきたいと思います。
○荒井政府委員 大きな問題を二つお問い合わせでございます。
 第一点の規制緩和後の安全の確保、安全体制の充実ということでございますが、貸し切りバスは、ある面、遠方に、なれない道、地域を旅行する、あるいは往々にして予定変更があるといったこと、さらに、事故が起これば大事故になるという可能性がございますので、用心しなきゃいけない運送事業であろうかと思います。
 先ほど申しましたように、運輸技術審議会で事業用自動車の安全対策を検討しているところでございます。例えば事故多発運転者のチェックと特別研修を行うとか、事故多発傾向のある事業者についての特別監査を実施するとか、あるいは事故全体の減少目標を何かの形で置く、地域の事故減少目標を置くとか、あるいは技術的なことでございますが、運行記録をとるためにデジタルタコグラフというような新しいものを義務づけるとか、運行最高速度の管理を徹底するとかいろいろなアイデアが現在審議会で出されております。有力な意見かと感じておる次第でございます。
 さらに、どのような形で導入可能かどうか、今後検討いたしまして、また法改正の形でお諮り申し上げたいと考えておる次第でございます。
 第二点目の、貸し切りバス事業者の経営努力が報われるような環境整備、特に旅行業者との関係是正というお問い合わせでございますが、貸し切りバスの適正な利用を確保するためには、貸し切りバス事業者と旅行業者の両者の話し合いの場を設けるということが従来から提言されておりますが、必要なことだと考えております。両者間の橋渡しを検討して、懇談会のような形で意見交換が行われるよう措置ができたらと考えておるところでございます。

○平賀委員 私は、道路運送法の改正案について質問をいたします。
 貸し切りバスは約八割が旅行事業者扱いになっておりまして、大手旅行事業者によります優越的地位を乱用した無理な運行計画の強要や、さらには運賃・料金のダンピングなど、過当競争は激しくなる一方であります。
 大阪で貸し切りバス事業者に具体的な話を聞きますと、大手旅行社のスキーツアーの場合、四十六万円の運賃が実に二十五万円で、認可運賃の半値までたたかれて、もうけはないと言っておりました。
 スキーツアーでは、ホテルが十カ所に分散する事例もありまして、そういう場合はスキーの積みおろしや、さらには点呼まで全部運転手がやらなければならないわけです。本来こういう仕事というのは、大手旅行社が添乗員などを配置してやらせる仕事であるにもかかわらず、まさにバスの事業者や運転手にその仕事を押しつけているわけです。しかも、こういう仕事をさせながら、大手旅行社は、貸し切りバスの運賃の一五%のマージンを取っているわけです。
 それで、こうした大手旅行社と貸し切りバスの事業者の関係を公正なものにしていかなければなりません。そのために、大手旅行社と貸し切りバス事業者、そして運輸省も入って、大手旅行社と貸し切りバス事業者が対等、平等に協議できる仕組みをつくるべきだと思いますが、運輸大臣、いかがでしょうか。
○川崎国務大臣 貸し切りバスについては、旅行業者が仲介を行う、この利用形態が八割を占めております。そして、多くの場合、運賃や旅程等はまさに相互の交渉事項となっております。
 このような中で、貸し切りバスの適正な利用を確保するためには、貸し切りバス事業者と旅行業者間の話し合いの場を設けることが必要である、今委員が御指摘いただいた件は、昨年六月の運輸政策審議会答申においても提言されております。両者間の橋渡しを私どもがすべく、努力をしてまいりたいと思っております。
○平賀委員 運輸省も入ってつくるということでありますので、ぜひ頑張っていただきたいと思います。
 それでは、次に安全問題について質問します。
 貸し切りバスの運行を見ますと、一般の観光が約五〇%です。学校行事や通学の輸送が約三〇%で、国民生活に密着した運行を行っているものでありまして、安全確保が最重点でなければならないことは言うまでもありません。
 九二年から九六年までの五年間の新規参入は四百二十四社です。それが、参入の規制緩和を行った九七年には、一気に三百五十五社の新規の参入がありました。今回、法改正によって需給調整の撤廃が行われますと、新規参入の可能性が大きくなります。その点で、運輸省の保安監査は、今以上に、体制的にも内容的にも強化をされることになるのですか、大臣。
○川崎国務大臣 先ほどから御答弁申し上げておりますけれども、各段階で規制緩和を進めてまいりたい、各業界単位でも行いたい、しかし、一方で、安全の確保については譲りません、こう申し上げているところでございます。貸し切りバスについても、同様な考え方で進めてまいりたいと思います。
 そのため、輸送の安全の確保を図るため運行管理者の権限を明確化する等、運行管理者制度の充実をまず図りたいと考えております。
 また、保安監査についても、監査体制の強化を図るとともに、事故等を多発しているような事業者、これをチェックする特別監査を重点的に行いたい、この監査のあり方の見直しも行いたいと考えております。
 いずれにいたしましても、安全確保のために最大限の努力をしてまいりたいと考えております。
    〔武部委員長代理退席、委員長着席〕
○平賀委員 私も、運輸省から、「貸切バス事業者の監査状況及び主な違反の内容別件数の推移」という資料をもらいました。それを見ますと、平成五年度は、監査の件数が九十四者、それに対して処分事業者の数が八十四者。ですから、処分された率が八九%です。平成六年度も、百六件の監査をやり、八十二件が処分をされる、こういう状況になっています。ずっと平成九年まで来まして、多いときで約九割が処分され、少ないときでも約七割が処分をされる、こういう状況に今なっています。
 それで、保安監査の要員が、全国で合計で百五十七名ということになっています。ですから、検査をやればほとんど処分者が出る、こういう状況でありますから、こちらの体制の分野でもしっかりと整備をしていかなかったら、この安全問題というのは大きな懸念があると私は言わざるを得ないわけです。
 これは大阪の事例でありますけれども、あるバス会社が、バスが五十台あって、五十人以上の運転者が本来必要なんですけれども、実際にはそうなっていないわけです。どういうことになるのかといいますと、運転手の不足をその都度アルバイトで補充をするわけです。アルバイトは一日一万三千円で、残業は一時間千円です。夜行ツアーのバスは、運転手が二名必要だということで特に不足をするために、北海道からトラックの運転手や観光バスの運転手など七十三人が働きに来ている、こういう実態でした。試採用期間ということで雇用をされている。金曜日の夜から月曜日の朝まで延べ四日の夜行ツアーを休みなく三回は繰り返して運転するのが普通だ、一回幾らという運転手もいて、ずっと続けて勤務をしている運転手もいるなど、むちゃくちゃな勤務になっているわけです。
 それで、旅客自動車運送事業等運輸規則、この三十五条で、事業計画の遂行に十分な数の運転者の常時選任を求め、第三十六条で、日々雇い入れられる者、アルバイトの運転手は禁止をされている、こういうふうに法律ではなっています。私が調査した実態からも、大阪の貸し切りバスの事業者について、調査を一度するべきではないかと思いますが、いかがでしょうか、大臣。
○荒井政府委員 監査の体制と、さらに具体的に、大阪の例の対処の姿勢をお問い合わせでございます。
 監査の実態は、限られた人数でございますが、いろいろな工夫を凝らして実行しておる実情にございます。今後、安全の強化という観点からは、いろいろな安全の仕組みを工夫するとともに、その中で監査の仕組みをいろいろ効率的にやる、あるいは常時監視をできるようなことをするということを考えつつございます。運輸技術審議会で事業用自動車の安全方策について審議されておりますが、その中で幾ばくかの進展があればと考えておるところでございます。
 さらに、大阪の件につきましては、ちょっと具体的な事例をまだ持ち合わせておりませんので、もう少し情報を教えていただいて適切に対処したいと思っております。