『信長政権 ---本能寺の変にその正体を見る』(渡邊大門)のP19に
『立入左京亮入道隆佐記』に
惟任日向守(明智光秀)が信長の御朱印によって丹波一国を与えられた。時に理運によって申し付けられた。前代未聞の大将である。
と書いてあるとして、これについて渡邊氏は
「理運」にはさまざまな意味があるが、この場合は「良い巡り合わせ、幸運」くらいの意味で捉えてよい。理運によって丹波一国を与えられたので、前代未聞の大将だったのである。立入宗継にとっては、光秀が名門土岐氏の相当な地位にあったとはいえ、丹波一国を授けられたことには驚倒すべき印象を持ったと推測される。となると、宗継は光秀を「随分衆」とは言っても、実際には光秀の経歴を詳しく知らず、風聞に拠って知った可能性が高い。
と解説する。
ちなみに「利運」のさまざまな意味とは、
1 よいめぐり合わせ。幸運。「―を得る」
2 道理にかなっていること。
「今度山門の御訴訟、―の条もちろんに候」〈平家・一〉
3 当然出あうべきめぐりあわせ。道理にかなっためぐりあわせ。
「これはうちまかせて―の事なれども」〈十訓抄・三〉
4 優越した立場をもとにして、勝手に振る舞うこと。
「あんまり―すぎました」〈浄・天の網島〉
立入宗継が「利運」をどういう意味で使ったのかは俺にはわかりかねる。では、渡邊氏がなぜ1の「良い巡り合わせ、幸運」を採用したのかといえば、「理運によって丹波一国を与えられたので、前代未聞の大将だったのである」と解釈したことによるのだろう。つまり「利運」と「前代未聞」を関連付けているということなんだろうと思う。さらにそこから光秀は幸運が無ければ(今までは)一国を授けられるような地位にはなかったということが導き出されるということなんだと思う。
でも「時に理運によって申し付けられた」と「前代未聞の大将である」の間にそのような関係があるのか俺は疑問に思う。俺はそうではなくて、独立させて「(明智光秀という人物は)前代未聞の大将である」ということなんじゃないかと思う。
「前代未聞」の意味は
今までに一度も聞いたことがないこと。非常に珍しいこと、程度のはなはだしいことにいう。「―の大事件」
⇒ぜんだいみもん【前代未聞】の意味 - 国語辞書 - goo辞書
だから「前代未聞の大将である」ということには、地位が低いのに一国を授けられたのが前代未聞という意味(前代未聞のことというニュアンス)の可能性もあるかもしれないけれど、そういうことではなくて明智光秀の武勇だったり、あるいは智略だったりが秀でているとか、今までの大将とは違ったタイプだという意味の可能性もあるのではないかと思うのだがどうだろうか?
※ だとすれば「利運」の意味も「幸運」という意味だとは限らず、「道理にかなっていること」「当然出あうべきめぐりあわせと」いう解釈も可能になろう。
なお「前代未聞」というけれど、この時代この言葉は割と頻繁に用いられていて、本当に「前代未聞」のことだけではなくて、ちょっと変わったところがあれば安易に用いられているような感じが俺はするんで文字通りに受け取るべきではないと思っているんだけど自信があるわけではない。