「独逸」について(その2)

中国ではドイツを「紱意志」と書く。日本では「徳」は「トク」だがピンインでは「dé」。


ふと「獨」はどう読むのかと思って調べたら「dú」だった。そして「逸」は「yì」となる。そして「都」は「dū」。すなわち「獨逸都」は「dú-yì-dū」。これでは「ドイツ」にならない。ただしウェード式というのがあって、それによれば「都」は「tu」。これなら「dú-yì-tu」となって「ドイツ」に近い。


さて日本では「獨」は呉音で「ドク」。漢音で「トク」、「逸」は呉音で「イチ」、漢音で「イツ」。「都」は呉音で「ツ」・漢音で「ト」だから、「獨逸都」は呉音で「ドクイチツ」、漢音で「トクイチト」であり、ドイツとはほど遠い。


であるから、『厚生新編』がドイツに「獨逸都」という漢字を当てたのは、漢字の日本での読みで当てたのではなく、中国での読みで当てたのだろうと思われる。そしてこの場合「獨逸」は「ドイ」になってしまう。



一方、『坤輿図識』は「獨逸」の文字をあてて「ドイツ」とカナがふってあるけれども、日本式に読めば呉音で「ドクイチ」漢音で「トクイツ」ちゃんぽんでも「ドクイツ」で「ドイツ」にはならないし、中国式に読めば「ドイ」になってしまう。これをどう考えるべきか?


「Holland(ホラント)」は「和蘭」でウェード式で「ho-lan」と読める(前の記事で紹介した『訳編初稿大意』では「おうらんど」になってるけど)、そのままカナにすれば「ホラン」になる。それを日本で中国式に「和蘭」と書いて日本で既に広く流通していた「おらんだ」とカナを振る。


それを当てはめれば「ドイツ」を「獨逸」と書くのは「ドイ」に漢字を当てたもので、それにフリガナを付ける際には「ドイツ」と書いたということが考えられる。


ただし「獨逸都」の「逸」が日本では「イツ」と読むので「獨逸都」の「都」が抜けて「獨逸」になった可能性もなくはないだろうと思われ。



そういう研究はないものかと探したけれど今のところ見つからない。


※ なおドイツには「獨乙」という表記もあり、「乙」は呉音で「オツ、オチ」・漢音で「イツ」なので、「逸」と同じく漢音が「イツ」だからと考えることは可能だが、こっちも中国式では「イ」になってしまうのであった。