まさかあの人が

【天声人語】2006年07月08日(土曜日)付

 ある人が何事かを起こすか、何事かを言ったとする。そのことを聞き知った側の反応は、おおむね二分される。「まさかあの人が」と「やはりあの人なら」の二通りだ。


 やはりあの人ならと思ったのは、6日夜の自民党幹部との会食であったという小泉首相の発言だ。「プレスリーの館に行っている時にテポドンが飛んで来なくて良かった」


天声人語子は「やはりあの人なら」と思ったのだろうが、俺は「まさかあの人が」と思いますね。


いや、小泉支持だからというわけではなくて、俺の場合、「事実だとしたらとんでもないこと」について考える場合、最初はそのように考えます。それは要するに素直に信じないということです。


元記事は
首相、テポドン「プレスリー邸の時でなくてよかった」

2006年07月07日02時22分
 「プレスリーの館に行っている時にテポドンが飛んで来なくて良かった」。小泉首相は6日夜、公邸で自民党武部勤幹事長らと会食した際にそう語り、出席者からは「首相は運が良い」と声が上がった。複数の同席者が明らかにした。


これは、時事通信の記事、
小泉首相「運が良かった」=プレスリー邸訪問中でなく−北朝鮮ミサイル発射

出席者によると、首相は北朝鮮のミサイル発射に関し、「プレスリーの所にいる時に撃たれていたら格好が悪かった。帰ってきてから撃ってくれて、運が良かった」と語った。


見ての通り「出席者」からの伝聞です。朝日によると「複数の同席者が明らかにした」ということなので、そういった趣旨の発言をしたのは、さすがに朝日といえども捏造ではなかろうと思います。


じゃあ問題はないのかといえば大有りで、これはあくまで「伝聞」であり、直接記者が聞いたわけではないということです。
プレスリーの館に行っている時にテポドンが飛んで来なくて良かった」という発言は、確かに「お気楽」な印象を与えますが、よく考えれば、首相がアメリカ滞在中に撃たれるよりも、帰国後に撃たれる方が良い(もちろん撃たれないほうが良いに決っているが)というのは事実です。そういった安全保障上の話が「要約」されて、上のような発言として伝わったとしたら、間違ってはいないけど受け取り方が大きく違ってくることになります。


こんなことは日常的に良くあることで、ブログでも誰々が何々と言ったという記事があるので、原文を読んでみたらまるっきり違っていたなんてことは珍しくもありません。これは意図的なものもありますが、思い込みによる誤読だったりすることもしばしばです。


もちろん俺は首相の発言を聞いたわけではないので、本当に「とんでもない」発言をした可能性を否定することはできませんが、素直に信じることも到底できません。俺だったら保留しますね。そういう情報があったということについては報道するのも止むを得ないところもあるとは思いますけど、それを論評するについては、「おいしい話」ほど慎重に対応すべきです。特に朝日新聞においておや。


それはそれとして天声人語子は、

今回は、あんなにはしゃいでいる場合ではなかったとでも言うのが普通ではないか。

なんて言っていますけど、ミサイルが発射される可能性があったとはいえ、いつ発射されるかもわからないのに、「はしゃいでいる場合ではなかった」というのは、つまり北朝鮮の挙動に日本の首相の行動が制限されるっつうことを表明しろってことじゃないんですかね?それって北朝鮮にとっておいしい話はないでしょうか。「はしゃいでいる」ことについての是非は、それとはまた別の問題だと思いますね。


ところで、小泉首相の会食中の発言を、「出席者」から聞いたというと、アテネオリンピックの金メダル受賞者に国民栄誉賞を授与するという話で、首相が栄誉賞を乱発しろと言ったかのような新聞報道があり、それに対して、

「私が(栄誉賞を)出せと 言ったとか、出さないとか、よくもまあ大きな新聞がデタラメを書くな、とあきれている」

と不快感を示したということが過去にありました。


「金メダリストに国民栄誉賞を」発言をめぐるマスコミと政府の確執(不可視型探照灯)に詳しいです。