米国務省の人権報告書

知識のない俺は従軍慰安婦論争に参加する資格はないなというのが、各所で起こっている議論での「濃い」中身を見ての結論で、それで今までも、そしてこれからも、この話題は基本的に取り上げないつもり。ただ、あまり触れられていないんじゃないかと思うことを書いておく。


朝日新聞は4月29日付社説「日米首脳会談―謝る相手が違わないか」で

 慰安婦は、単なる歴史的事実の問題ではない。国際社会では、女性の尊厳をめぐる人権問題であり、日本がその過去にどう向き合うかという現代の課題と考えられているのである。

と書いた。「国際社会」はよくわからないが、「アメリカ」ではまったくそのとおりだと思う。アメリカ人が人権問題について、どういうことに関心を持っているのかは、米国務省の人権報告書を見ればおおよそ把握できる。日本についての報告は日本語訳で読める。


2004年国別人権報告書 − 日本
2005年国別人権報告書(抜粋)
2006年国別人権報告書(抜粋)


毎年、従軍慰安婦問題について触れられている。そして「差別、社会的虐待、人身売買」について大きく取り上げていて、その中でも「人身売買」について重要視していることがわかる。慰安婦は過去の「性的奴隷」であるが、こちらは現在進行形の「性的搾取」として大いに注目されている。


ところで朝日新聞は3月10日付社説で、

日本は北朝鮮による拉致を人権侵害と国際社会に訴えている。その一方で、自らの過去の人権侵害に目をふさいでいては説得力も乏しくなろう。

と訴えた。これについては、過去の問題と現在の問題を同列に論じるな的な批判が湧き上がった。しかし、同列に論じるのがナンセンスでないとしても、今度は、現在進行形の人権問題として、アメリカが重視している「人身売買」についてはどうなんだという疑問が出てくる。


日本のメディアを見ていても、右派系・左派系にかかわらず、現代日本の「人身売買」問題の深刻さはまったく見えてこない。アメリカが重視している人権問題の中で、慰安婦問題だけが突出して問題視されている。これってどうなんだろう?いずれ大問題に発展するかもしれない。で、その「人身売買」問題だが、日本では左右ともあまり取り上げないということは、これについて無視しているというよりも、そもそも問題を知らない、知っていても優先すべき問題だとは思っていないのだろう。アメリカから見たら「鈍感」ということでもある。


ただ、日本には日本の言い分がある。というのも、日本にやってくるそれらの女性は、東南アジア等の貧しい人達である。彼女達は日本で働いて家族を養ったりしているのである。この米国務省の報告書で指摘されたことにより、日本政府は規制強化に乗り出したが、フィリピンでは抗議デモさえあったのである。規制を強化すると人身売買以外に該当しない人まで困るではないかという理屈。しかし、このような「言い訳」はアメリカには通じないだろうことは、今回の騒ぎを見れば容易に想像がつく。日本とフィリピンの間の問題に、第三者であるアメリカが「人権」を旗印に圧力をかけてくることについて、俺もどう評価すればよいのか結論が出せないのだが、もっとそのへん議論があって良かろうとは思うのである。



それともうひとつ、米国務省人権報告書といえば、中国が猛烈に反発していることで知られている。
外交部報道官、米国務省の国別人権報告を批判(「人民網日本語版」2005年3月2日)


中国は、対抗して「米国の人権記録」という報告書を発表して、アメリカの人権侵害を糾弾している。
中国マスコミスキャン〜「人権報告」米・中2つのバージョンJanJan


中国にアメリカの人権問題を批判する資格があるのか、というのが大方の感想だろうが、言いたい気持ちがわからなくもなかったりする。で、そういう流れを見ていけば、実は中国としては今回の米国議会の対日批判決議についてはあまり熱心ではないというか、諸刃の剣と見ている節もあると思われ。この問題を推進するマイク・ホンダ下院議員が中国系団体から献金を受け取っているとはいうけれど、中国政府の意向としてはどうなんだろうとか思ったりもする。