ワニかサメか

いつも興味深く拝見しているブログ。
因幡の白兎 ワニ派vsサメ派の論争とか。 現在位置を確認します。/ウェブリブログ

日本に鰐はいない。「わに」という言葉自体は大陸伝来なのか存在するようだが、馴染みのある動物ではなかった。たぶん、「鰐」という言葉をあてている動物は、現実のそれではなく、伝聞でイメージされた架空のイキモノだったのだと思う。

尤もだとは思うけれど、それでもなおワニかサメかを考えることは必要ではないかと思う。


たとえば昔話に出てくる狐や狸、あるいは化け猫など。これらも「架空のイキモノ」ではある。九つの尾を持つ狐など現実には存在しない。けれども、これらは現実に存在する狐や狸や猫から大幅に外れるものではない。そして、これらの動物は日本に生息しており、日本列島に住む人々に馴染みのある生物だ。


サメも日本近海に生息し本物を観察することができる生物だ。したがって、神話・伝説に登場する「サメ(ワニ)」も本物と違うところがあってもそう大きく外れたものにはならないように思う。


一方、ワニは日本に生息しない。「因幡の白兎」の神話は南方から渡来したと考えられている。それが本当かはわからないけれど、とにかく日本で発生した神話でないことは確実だ。その神話を日本にもたらした人は本物のワニを実際に見たことがあるかもしれない。しかし日本列島の住人の中には本物のワニを知らない人が多かったに違いない。神話をもたらした人の子孫であっても本物のワニを見ることができない。そのような生物が現実に存在するのかさえわからなくなっていったかもしれない。であれば神話の中の「ワニ」が本物のワニの生態と異なったものに変化する可能性は、実際に目にすることのできるサメよりも大きいだろうと思われる。


そう考えれば(「因幡の白兎」ではないけれど)トヨタマヒメが陸でお産するというのは現実のサメとはあまりにもかけ離れている。現実のサメを知っている日本列島の住人がそんな改変をするだろうかと思う。一方、「ワニ」が海の生物だというのは、現実とは違うけれど、現実のワニを知らないことからくるものだとすれば、それほど不思議なことではない。


なお「サメ派」の主張というのは、古来サメのことを「ワニ」と呼んでいたという主張であって、「架空のイキモノ」がサメに似ているので「ワニ(サメ)」と呼んだという主張ではないと思う。したがって「ワニ」が陸上でお産をするというのは、陸上でお産する「架空のイキモノ」のことを「ワニ(サメ)」と呼んだのではなくて、普通のサメは陸上でお産しないけれど、トヨタマヒメは特別なサメなので並のサメとは違って陸上でお産するのだということになると思われる(「化け猫」が猫の中の特別な猫であって、猫以外の生物を猫にたとえたのではないように)。


因幡の白兎」に出てくる「ワニ」が「架空のイキモノ」だというのは、現実のワニとは異なるという意味では確かにその通りではある。それでもなおこの「ワニ」は現実のワニが元になったものであろうと考えることには意義があろうと思うのである。


※ もっともこの「ワニ」にサメのイメージが含まれているというのは可能性としてはあるかもしれない。ただし神話を見る限りではサメの影響は全く無いとしても問題ないように思われる。