「ポール・マッカートニー死亡説」で試されるリテラシー能力

本物のポール・マッカートニーは1966年に死亡 替え玉を使用? - News - 文化 - The Voice of Russia
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結論からいえばこれはガセである(わざわざ言うまでもないが…)


しかし、このガセニュースの「どこがガセなのか?」という点でリテラシー能力が試されている好例であろう。


(その1)
ポール・マッカートニー死亡説」。初耳という人もいるのだろうが、これは割と有名な話。

様々な「手がかり」を駆使して語られたのは、次のような筋書きだった。遡ること三年前(1966年11月9日)、ビートルズのレコーディング中に口論を起こしたポール・マッカートニーは怒りにまかせて帰りの車を走らせた。そして自動車事故を起こし、結果的に命を落としてしまう。世間を悲しませないようビートルズは代役にポールのそっくりさんコンテストで優勝した「ウィリアム・キャンベル」を立てることにした[10]。

ポール死亡説 - Wikipedia
これが今回のガセニュースの基本となっている。


※ なお「ロシアの声」では「ビリー・キャンベル」となっているが、ビリーがウィリアムの短縮形だというのは英語の基礎。フルネームは「ウィリアム・シアーズ・キャンベル」であり、「ビリー・シアーズ」は「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のメンバーである(もちろん架空人物)。
ビリー・シアーズ - Wikipedia


で、この都市伝説を知っている人が「昔からある」みたいなことを言ってたりするのだを見かけるが、そもそもこのニュース自体「ポール・マッカートニー死亡説」を新説として発表したものではない。そうではなくて、記事の最初に、

 元ビートルズのドラマー、リンゴ・スターさんが、 世界を驚かせた。スターさんは、外国の出版社のインタビューで、 「本物の」ポール・マッカートニーさんは、 1966年11月9日に交通事故で死亡したと発表した。

とあるように、「都市伝説とみなされていたものがビートルズのメンバーにより事実だと確認された」というところが、今回の要点である。



(その2)
日本で話題になっているのは「ロシアの声」の記事だが、だからといって「ロシアの声」がこのガセニュースを創作したわけではない。英語で検索すればすぐにわかることだが、英語圏でかなり話題になっている。もちろん「ロシアの声」はこの手のニュースを検証なしに載せるメディアだから、「ロシアの声」に載っているこの手のニュースはほぼガセとみなすという判断は適切ではあるけれども、共同通信配信の記事で他の新聞にも載っているのにもかかわらず、産経ニュースでみて産経が書いたと思い込んで批判をする人と似たような反応がちらほらみられる。


(その3)
このニュースのソースは「The Hollywood Inquirer」というメディアである。「ロシアの声」には書いてないけれど、リンゴスターが「The Hollywood Inquirer」と独占インタビューの契約をして、そこで「ポール・マッカートニー死亡説」が事実であるという衝撃的な発言をしたのである。





ただし「The Hollywood Inquirer」なるメディアのページは検索しても見つからない
「The Hollywood Inquirer」で検索すると「Hollywood | Inquirer Entertainment」というページがトップにあるけれど、これは「The Hollywood Inquirer」ではない。


デイリー・ミラー紙によると、「WorldNewsDailyReport.com」などのサイトがこの情報を広めたらしい。
Did Ringo Starr just admit that the 'real' Paul McCartney died and was replaced by a look-alike? - Mirror Online


※ なお「WorldNewsDailyReport.com」を見たら、ポール・マッカートニー本人が「The Hollywood Inquirer」のインタビューで、リンゴの発言は老人のたわごとだとして死亡説を否定したそうな。繰り返すが「The Hollywood Inquirer」なるメディアはどこにあるのだろうか?(つまりこれもガセ)
Paul McCartney Refutes Ringo Starr’s Allegations that He Died in 1966



※ ちなみに「WorldNewsDailyReport.com」はこのリストに載っている、
A Guide to Fake News Websites



(追記21:02)

ghostbass そこまできてリンゴの発言を疑わない?

あのですねえ、リンゴにインタビューしたという「The Hollywood Inquirer」なるメディアは探しても見つからない、すなわち実在しない可能性が非常に高い(というか実在しない)。その記事を載せた「WorldNewsDailyReport.com」はFake News Websitesのリストに載っている。そこまできたら「リンゴの発言」を疑うとか以前に、インタビュー自体が架空のものだという結論が導き出されますよね。


ポール・マッカートニー、死亡&替え玉説騒動 ジョークサイトのうそだった - シネマトゥデイ


(追記3/5 9:25)
上の件だけど、もしかしたら「リンゴのジョークだった、またはリンゴが脳に異常をきたしてこの発言をしたという誤った解釈をしてしまう可能性について俺が言及していない」という意味なんだろうか?だとしたら確かにそういう可能性はある(この人自身が「リンゴさんももういい歳なんでいろいろあれかもよ?」とロシアの声の記事にコメントしている)ので、それについて書かなかったのは手落ちではあった。しかし本当にそういう意味のコメントだったのか何とも解釈に苦しむ。


ので、それについて書かなかった