ニコ生シノドス『ホメオパシー騒動とニセ科学論争の行方』見たよ(5)

なぜホメオパシーだけを目の敵にするのか


以下書き起こし

菊池「そうなんだけど、えっと、これ正しくて、ほとんど全てのニセ科学問題、これでいいんだけど、えっと、ホメオパシー、ちょっと基礎科学的な部分が、他の代替医療とか、補完医療に比べると、あまりにも、あまりにも、何ていうかなー、あのー、飛びぬけて特異的なんですよね。つまり、だから鍼は効くかもしれないっていうのと、科学じゃないだろうって言われても、あるかもしんないじゃん、刺すなら、だけどー、ホメオパシーは無いからねー」


久保田「そうそう、だから、すごくそういう意味じゃあ、わかりやすくはあるんですよ」


菊池「逆にそれだけで終っちゃうっていう話になりかねなくて、それにもかかわらず、意外に臨床的にはチェックされているというのは、すごい重要で、」


久保田「そこは、そこは確かにね、すごく重要なんですよ。それはあのいわゆる、日本のこういう疑似科学批判と、いわゆる諸外国の疑似科学批判のレベルが違って、日本は必ず1で終っちゃうんですよ。それは物理学的に歩み寄れないから。っていう。キミ達は物理と科学を知らないんだからヘヘン、ていう格好で終っちゃうんだけども、2の方はですねえ、これじゃあ、とにかく知らなくてもいいから、じゃあやってみよう、本当に君の言うとおりの現象が起きるかどうか、っていう格好で、あの批判するか、リジェクトとするっていうのが、いま、西洋の疑似科学批判の方の、えー、主要なメソッドになっているんですよ」


菊池「ちょっと、一応言っておきたいんだけど(笑)、それは基本的には、基礎科学部分がどのくらい、どのくらいその変な話かによっててね、うん、あのー、やっぱり臨床的なとこちゃんとやんないといけない問題、臨床っていうか、普通の、ニセ医学に限らずね、ちゃんと調べないとやっぱり言えないよ、っていうものあり、っていうか、調べてみる価値あるものあり、ずれているかわかんないけど、それから、やっぱり、とりあえず門前払いにしといていいくらい、そのー、現代科学とかけ離れているものありなので、ちょっとそこは程度問題だということは言っておきたいんだけど、ただ、上だけでやめられない問題がたくさんあるってのは事実でえ、で、本当は多分ね、代替医療のための殆どは、ちゃんと、あの、臨床の方が重要なはずなんですね」


菊池誠氏はホメオパシー「飛びぬけて特異的」だと指摘している。そのことについては俺も前に書いた。
漢方は疑似科学なのか - 国家鮟鱇


異論はない。この点について、「ニセ科学批判批判」で理解してない人がいるようだけれど、「ニセ科学批判」側でも一部に、どれだけ理解できてるのか怪しい部分があると俺は思う。


ところで、ここには、菊池誠氏と久保田裕氏の疑似科学に対するスタンスのズレが表れているように思われ、久保田氏が検証してみせることを重視しているのに対して、菊池氏は「基礎科学部分」を重視している(検証を軽視するというわけではないけれど)。確か「水伝」のときにも菊池氏はそういう態度であったはず。


久保田氏は以前から、学界の権威が頭ごなしに疑似科学を否定することに不満を表明していて、俺の場合は自然科学じゃないけれど、趣味の日本史でそういうのを良く見てきたから大いに共感できる。しかし、基礎科学部分を重視するという菊池氏の態度にも共感できる。と言うと何か玉虫色になっちゃってる感じだけど、そうではなくて、久保田氏は検証の必要性を重視することに熱心なあまり、菊池氏のようなスタンスに否定的になっているような印象を持たせることになっているように思われ、その点で俺にはちょっと違和感がある。



なお、日本学術会議副会長の唐木英明氏も「なぜホメオパシーだけを目の敵にするのか」ということについて、

そういった、その混沌たる療法、そのほかに魔術とか呪術とか、日本でも徳川将軍が病気になったら坊さんが来て祈祷をするわけですね。そういったものが治療法だったんだけれども、それがこの150年くらい前から、科学の目を、ふるいにかけられて、科学的に正しいものと、科学的に間違ったものが、段々分けられてきた。科学的に正しいものだけが現代医療として生き残った。科学的に怪しいものはまだいっぱいあるんだけれど、もっとも明確に否定されるものがホメオパシーなんですね。ですから、それは科学的根拠から言っても、それから治療成績から言っても、否定されると、ですから、たくさんある怪しいものの中からホメオパシーを選んだというのは、明確に否定されているからだという意味です

ホメオパシー「明確に否定されているから」だと言っている。


疑似科学批判」としては、こういう姿勢は全く正当なものであると俺は思う。


だが、しかし、ニセ科学批判」として、ホメオパシーを批判するときの最大の攻撃材料は「被害があった」ということなのではなかろうか?


唐木英明氏は会長談話を発表した理由として、

唐木「日本学術会議というのは、今お話があったように、日本の研究者の、科学者の代表機関ですけれども、いくつか仕事があって、一つは政府に対して科学技術の政策を提言するというのもありますが、もうひとつは、科学についての正しい知識を広めると、いうのがあるんですね。そういったことで、海外の研究者とも、いろんな情報交換をして、どういう間違った知識、あるいは正しい知識、何を広めたらいいのかというような話もしているんですが、その中でひとつ出てきたのがホメオパシーなんです。今までお話あったように、欧米ではホメオパシーが非常に広く使われていて、非科学的であることがわかっていても英国では保険適用がやめられないというような状況まであると、日本について言うと、日本はホメオパシーかつてはなかったんですね。一部の熱心な人達が、輸入をしてきて、さっきも話があったようにホメオパシーがいい、いいという大宣伝が始まっている。そういった状況を話す中で、日本はこのまんま放置したら、欧米と同じような悲惨な状況になってしまう。今のうちにどうにかしたほうがいいという話を、随分あちこちから聞きました。これは私が聞いた話ですが、談話を出した会長自身もイギリスでホメオパシーが非科学的であるという議会の声明の背景にはイギリスのアカデミーがいるんですが、そのへんからも情報が入ってきて、これは何とかしなくてはいけないだろうというのがこの問題の始まりだったということです」


荻上「なるほど。今回その会長談話という形で発表されたと思うんですけども、唐木さん自身から見て、たとえばホメオパシーには、具体的にどういった問題があるというふうにお感じでしょうか」


唐木「それは今までお話があったように、科学的な根拠がないということと、それから臨床的に効果が無いことがランセットの論文ではっきりしてる。要するにプラセボ以上の効果は無いと、この二点が、明らかである以上は、これは医療としては使えないということだろうと思います」

唐木「実は、ホメオパシーについて検討を始めたのは、もう2年、1年半前から2年前なんですね。ただ、この問題について、ホメオパシーという言葉をご存じない方も、学術会議の中でもおられるし、学術会議だけで、これ出してもあまり効果がないんで、医師会とか関係機関とも協議をしながら出していこうという相談にだいぶ時間がかかっていた。そこに山口の事件が起こったんですね、一気にホメオパシーというものに対する認識が広まって、談話を出すことができたということで、山口の事件がひとつの後押しになったことは確かです」

と証言している。


重要なのは、日本学術会議が会長談話を発表したのは、「科学についての正しい知識を広める」ためであり、山口の事件は「ひとつの後押し」であったということだ。



こうして見てくると、菊池誠氏や日本学術会議の「ニセ科学批判」と、ネットで一般に見られる「ニセ科学批判」は、同じ「ニセ科学批判」であっても、かなり違うのではないかと思えてくる。しかしながら、菊池誠氏はネットで、そういう「ニセ科学批判者」と繋がっている。


このあたりが事態をややこしくしているんじゃないのでしょうかね?


(追記)
これでも説明不足な気がするから追記。なぜホメオパシーが「飛びぬけて特異的」なのかというと、レメディーには元の物質が1分子も含まれていないから。漢方の場合は臨床試験で効果の有る無しを確認する必要があるけれど、ホメオパシーはそれ以前の問題。漢方に効果があればメカニズムがわからなくても何らかのメカニズムが働いていることが推測されるけれど、ホメオパシーにはそれが無い。ホメオパシー批判では効果が無いということが強調されてるけれど、それよりも何よりも、最も根本的なところで疑似科学だということ。