前にこんなことを書いた。
⇒淀君は聖なる女性(その2) - 国家鮟鱇
市場の立てられた場所が神社や寺の門前などであったのは、そこが聖と俗の境界であったからだと言われる。「市(いち)」という名前を持つ女性もまた聖と俗の中間に位置する巫女的な属性を持つ女性であった可能性がある。
(ちなみに柳田国男も「市」という名前の女性が出てくる伝説に関してそういうことを書いていた記憶がある)
お市の方は単に織田家の女性であっただけではなく「聖なる女性」であった故に、彼女とその娘達は歴史上重要な役割を果たしたのではなかろうか?というようなことを前々から考えている。
前の記事では書かなかったけれど、「いち」とといえば「盲目」の人にその名を持つ人が多い。
有名なのは小説・映画だけど「座頭市」。
原作は子母澤寛。子母澤は江戸時代に活躍した房総地方の侠客を取材するべく当地を旅した際に、盲目の侠客座頭の市に興味を覚え、彼について原稿用紙にして十数枚に書き記した。これが『座頭市』の原作となった。
ウィキペディアの「有名な検校」一覧をみれば「一」という名前が並んでいる。特に有名なのは『群書類従』の編纂者である塙保己一だろう。
⇒検校 - Wikipedia
なぜ「一」なのかということを考えるに、研究者がどう言っているのかは知らないけれど、盲目の人が楽器の演奏を生業としていたことと関係があるのだろう。音楽もまた異界と俗界を媒介する役割があると考えられるから。「耳なし芳一」はまさにそんな話だし。
⇒耳なし芳一 - Wikipedia
「市」の語源は「斎(いつき)」だと考えられているそうだ。
いつき【▽斎】
1 心身を清めて神に仕えること。また、その人。特に斎院(さいいん)や斎宮(さいぐう)。斎皇女(いつきのみこ)。
もしかしたら、お市の方も実は盲目の女性であった可能性も少しだけ思うけれど、そうではなくても、何かしら「聖なる女性」としての属性を持つ女性であったのは、おそらく間違いないだろう。
と個人的には思う。
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(追記 1/14)
イチは一方に神に仕える女性を意味すると共に、九州などでは亦単に稚児といふ義にも用ゐられて居た。
(『柳田國男全集11』筑摩書房)
(追記 1/17)
「かんなぎ」のことを「いちこ」とも言う。
⇒かんなぎ【巫/覡】の意味 - 国語辞書 - goo辞書