弓削道鏡の謎

宇佐八幡宮神託事件は古代史上の大事件だ。もし道鏡への天皇位の移譲が実現していたら、それ以降の日本史は現在の日本史とは大きく変わったものになっただろう。

宇佐八幡宮神託事件 - Wikipedia
道鏡 - Wikipedia


道鏡天皇になるということは皇統が天皇家から弓削氏に移るということではない。天皇そのものの定義が変わってしまうということだ。道鏡は法王であり、以後の天皇も法王が即位することになっただろう。中国の皇帝よりもローマ教皇ダライ・ラマに近い存在になっただろう。


ウィキペディアの「道鏡」の項に、

井沢元彦『逆説の日本史』- 井沢は実子が存在せず血統による皇位継承ができなくなった称徳天皇は、代わって有徳者に皇位を継承するシステムを構築しようとしたという説を唱えている。道鏡皇位継承者に選んだのも、道鏡個人がそれに相応しい人物であるという判断のみならず、僧侶で実子のいない道鏡もまた血統による皇位継承が不可能であり、有徳者に皇位を継承させる制度が継続されるであろうという判断もあったとする。

と書いてある。俺は今では井沢氏の『逆説の日本史』をトンデモ本と認定しているが、これについては当時読んだときに鋭い指摘だと思ったし、今でもこれだけはそう考えている(ただしこれが井沢氏独自の考察なのかは知らない)。


だが、そもそもこの事件は史実ではないのではないかという疑惑がある。

この事件については『続日本紀』に詳細が書かれ、道鏡の政治的陰謀を阻止した和気清麻呂が「忠臣の鑑」として戦前の歴史教育においてしばしば取り上げられてきたが、既に江戸時代に本居宣長によって一連の神話的な事件の流れに懐疑的な説が唱えられ、近年には『続日本紀』の記事には光仁天皇の即位を正当化するための作為が含まれている(神託には皇位継承については触れられていない)とする説も存在する。

本居宣長の指摘がどういうものなのか具体的なことはまだ調べていないけれど、その可能性も多いにあると思う(「光仁天皇の即位を正当化するための作為」というのは陰謀論めいているが、これは宣長ではなくて陰謀論大好きな現代の歴史学者の主張だと思われ)。


※ なお、これが「神話」だとしても「神話」での中の道鏡称徳天皇が目指していたものは、仏教最高位の者が日本を支配する体制を作るというものだということになるだろう。



で、俺がとても気になるのは、伝えられている道鏡の事跡が、物部守屋と相似しているのではないかというところ。


守屋は仏教を排斥しようとした人物として有名だ(ただし仏教を完全に排斥しようとしたわけではなくて、仏教によって古来の神々への信仰が疎かにされることを懸念していたのだろうと思われる)。そして、蘇我馬子聖徳太子と対立し滅ぼされてしまう。


一方の道鏡は守屋とは対称的だ。宇佐八幡宮の神託は古来の神々から仏教への譲位という意味を持つだろう(八幡は神仏混淆の神だが)。道鏡天皇に即位することにより、日本は仏国土となり完全に仏教が支配する国となっただろう。だがその企ては失敗して流罪になってしまう。


やってることは正反対だが経緯は似ている。そして道鏡弓削氏物部氏の一族であると考えられている。

平安時代初めの『先代旧事本紀』では物部尾輿が弓削連の祖である倭古連の女子、阿佐姫と加波流姫を妻としたとある。また尾輿と阿佐姫の子守屋は弓削大連と名乗った[13]。『日本書紀』でも守屋は随所で物部弓削守屋と呼ばれており[14]、その理由として母方の氏の名をとったとするのは自然である[15]。

さらに、孝謙上皇天平宝字8年(764年)に出した宣命では、道鏡が先祖の大臣の地位を継ごうとしているから退けよと言われたと語る所がある。この大臣は大連であった物部守屋であろう[16]。ここでは河内の弓削氏物部守屋の子孫だと考えられている。

弓削氏 - Wikipedia


このあたり話が出来すぎているように思う。