織田信長と前田利家(その3)

以上のような背景があることを考慮しながら、信長が利家に話したことを検証してみる。

利家様、若き時は、信長公御傍に寝臥なされ、

これを信長と利家が若いときに一緒に寝ていたと解釈するからおかしなことになる。


これは昔の記事にも書いたが「小姓だった」という意味だ。乃至政彦氏も同様の意見。小姓なのだから信長の側近くにいるのは当然だ。


ところで、当時は城下町に武士が集住するということはまだなく、武士はそれぞれ自分の支配する土地に住んでいた。先に書いた林氏や佐々氏の信長暗殺未遂事件も信長が彼らの城を訪問したときのことである。後者は「蛇がへの事」という話で有名。利家の前田氏も尾張荒子というところに城を構えていた。利家が信長の居所に住んでいたのは利家が嫡男ではなかったからであろう。そういう理由があるとはいえ他の在地の武将とは違って利家は信長と同じ所に住んでいた。それこそが信長の発言の肝腎なところであって、そこのところは話全体がどういう話なのかを知らなければ理解できない。この話は「信長と利家の関係」というよりは「(信長との関係における)利家と他の武将の違い」の方が重要なのだ。


次に

御秘蔵にて候と、御戯言、御意には、

まず言っておきたいのは、乃至氏は「御秘蔵にて候と、御戯言」で区切っているけれど、「御意には」とあるのだから、「その心は」「その理由は」ということであって、その後に続く発言が「御秘蔵」の説明になっているということ。すなわち「御秘蔵」は「信長公御傍に寝臥なされ」にかかっているわけではないということ。


なお、

利家様、若き時は、信長公御傍に寝臥なされ、御秘蔵にて候と、御戯言

は「利家は若い時に信長の秘蔵だった」という意味に受け取れるかもしれないけれど、この安土城の接待の時点で「秘蔵」という意味にも受け取れるのではなかろうか?つまり、「利家は若い時から信長の近くにいた者で(今の)信長の秘蔵である」という意味。


「秘蔵」とは

1 人にはあまり見せずに大切にしまっておくこと。また、そのもの。「書画骨董を―する」
2 自分のもとから離さず、大切にかわいがり育てること。また、その人。「―の娘」
3 その道の奥義として外部には出さない事柄。

ひぞう【秘蔵】の意味 - 国語辞書 - goo辞書
という意味。


この「人にはあまり見せずに大切にしまっておくこと。また、そのもの。」という意味ならば、安土城での接待で末座にいた利家のことを、「高い地位にいないので目立たないけれど、大切にしているのだ」という意味の可能性もある。


「御戯言」というのは利家の謙遜。つまり自分はそんなに高い評価をされる人間ではないのに信長がふざけてそんなことを言ったのだということ。


(つづく)