「保守」とは何か?(その3)

日本では自民党が「保守政党」だと考えられている。そしてその「保守」とは戦中・戦前の価値観を「保守」しようとするものだという考えが多いように思われる。


しかしながら自民党の「保守本流」といえば、

戦後政治の基本路線を決定した吉田茂と,吉田が指導した旧自由党の系譜とこれに連なる池田勇人佐藤栄作の政治家群を呼ぶ。池田や佐藤は本命政権として約 12年にわたって政権を担当し,保守本流の圧倒的存在を誇示した。
(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

自由民主党の派閥のうち、吉田茂が率いた自由党の流れをくむ勢力の系統。軽武装・経済重視の傾向が強い。平成研究会・宏池(こうち)会・為公(いこう)会がこれにあたり、長く党内の主流を占めた。→保守傍流
デジタル大辞泉

保守本流とは - コトバンク
というものであり、

氏は、政治評論家の石川真澄からの孫引きとして、元自民党幹事長保利茂の次のような言葉を引用している。「新憲法のあの精神で政治を運営していく。それにサンフランシスコ平和条約日米安保条約、これが戦後の新しい日本の骨組み、骨格となった。これを維持発展させようとすることが、せんじつめれば本流意識ではないか」

つまり、現行憲法尊重の立場に立ち、サンフランシスコ平和条約日米安保条約に象徴される対米従属の外交路線をとることが、保守本流の本質だというわけである。これは、政治的な面から保守本流をとらえているわけだが、経済政策でいえば、ケインズ的な有効需要政策を重視する立場だといってよいだろう。

保守本流とは何か:中村政則「戦後史」
という解説もある。


つまり、戦前の体制を否定し、かつ革命も否定して、戦後の体制を維持することが「保守」なのであって、国語辞典的な意味での「保守」かもしれないけれど、政治思想上の「保守主義」とはあまりというかほとんど関係ない。特に「ケインズ的な有効需要政策を重視する立場」というところは全く違う。


しかしながら自民党には戦中・戦前の価値観を「保守」しようとする人達が多いのもまた事実。一般の「保守」のイメージはむしろこっち。ではこれが政治思想としての「保守主義」なのかといえば、必ずしもそうではない。


政治思想としての「保守主義」は伝統を重視する。なぜ伝統を重視するのかと言えば、人間の理性に対する懐疑が根底にあり、脳内で作られた理想の押し付けに反発するからだ。なぜそんな伝統が続いているのか合理的に説明できないものでも人々がそれを受け入れているのには何か意味があるはずであって、それを合理的ではないという理由によって破壊することを嫌うのである。したがって左翼インテリが押し付ける価値観にも反発するが、戦中・戦前の価値感を理想化して押し付けようとすることにも反発する。それらは現実と乖離した脳内妄想であるという点で同じものだからだ。


しかし左翼インテリから見れば、合理的に説明できないもの、左翼の理想に反するものを守ろうとする者はまとめて「保守反動」ということになってしまい、一般の「保守」のイメージもそうなっているというのが現状であろう。