日本の若者はビートルズを聞いてなかったという話は本当か?(4)

次に問題としたいのがビートルズ世代」という言葉。


日本の若者は、ビートルズなんて聴いてなかったのか? - あざなえるなわのごとし
を読んだだけではよくわからなかったのだけど、小熊英二氏の『1968』に、亀和田武氏のエッセイが引用してあって、

橋幸夫舟木一夫で育った世代が、いま自分を根っからの「ビートルズ世代」と思い込んでいるのと、それは似ている。

とある。で、最初読んだときには、全く何とも思わずスルーしてしまったんだけれど、考えてみればビートルズ世代」なんて言葉を俺は初めて目にしたんじゃなかろうか?


「いや、昔からあった言葉なのかもしれない」そんな風に自信がなくなるような自然な言葉ではある。


けど、やっぱりそんな言葉は無かったように思える。「ビートルズ」+「世代」だから、いかにもありそうな言葉であって、実際に自然と口に出したことがある人ならいるかもしれない。でも一般的に使われてはいなかったんじゃなかろうか?


このへんまるで「江戸しぐさ」のようだ。この言葉も実際にあったように感じられる言葉だ。


で、検索すると、

似たようなテーマで「自分たちの世代を表す言葉」というのも訊いているんですが、上位5位に並んだ言葉というのが、「団塊」「ベビーブーム」「グループ・サウンズ」「フォークソング」「ビートルズ」でした。最初の2つは当然として、後はすべて音楽です。日ごろから「自分たちはひと括りにはできない」と言っている団塊世代ですが、実は音楽ベースで結び付いているんです。加えて自分たちが何と呼ばれたいかもリサーチした結果、最も多かったのが「ビートルズ世代」でした。次に出てきたのが、50代全体では1位に挙がった「フォーク・ニューミュージック世代」。これに関しては、学歴も所得の差も関係ありません。

団塊の世代ってどんな世代? | ORICON STYLEという2006年の記事がある。また、
“ビートルズ世代"がターゲット〜朝日新聞「どらく」について聞く
という2007年の記事がある。

――「どらく」のキャッチには、「ビートルズ世代」とありますが。

 団塊の世代と言われますが、そう言われる方々は、自分たちが望んでそう名乗ったわけではないのですよね。“団塊の世代”と言ってしまったら、敬遠されると思うんです。そこで、何か代わりになるいい表現はないかと悩んでいたところ、浮かんだのが、その世代によく聴かれ、時代の象徴的な存在でもある「ビートルズ」だったんです。ビートルズの曲は今の若い方でも聴かれますし、年齢層を決め付けない、ということで採用となりました。


ビートルズ世代」という言葉は21世紀になって(俺の知らない間に)一部で使われだした言葉ではなかろうか?


なお、先の亀和田氏のエッセイは2003年のもの。ここで使われている「ビートルズ世代」という言葉が、一般的な言葉として使われているものなのかは不明。というのも亀和田氏は

十年くらい前かな。中学校の同窓会に行ったら、同級生の一人が、すました顔で「俺たちビートルズ世代は」なんていい出すんで、あれには驚いた。「ウソつけ。お前あの頃、いつも橋幸夫舟木一夫ばっかり歌ってたじゃないか」(笑)(p.10)

Living, Loving, Thinking - 「団塊」と「ビートルズ」、それから「世代」の話
とも書いているので、この「俺たちビートルズ世代は」というのは同級生が会話の中で造語したもので、一般的に使われていた言葉を使ったものではない可能性もあると思うからである。


※ なお亀和田武氏は1949年1月生まれ。1968年には19歳。中学生だった渋谷陽一山下達郎から見れば大人。


とにかく俺は「ビートルズ世代」という言葉を知らなかった。知らない上で「当時の若者はビートルズを聴いていたか?」という問題を考えている。一方、小熊氏や亀和田氏は「ビートルズ世代」という言葉を認識した上で(それを否定する)思考をしている。それだけの差でも歴史の描写に大きな差が出てくる可能性が十分あるのだろう。


つまり「歴史とは現在と過去との対話である」(E・H・カー)とある通り、現在(の認識)が異なる(現在に「ビートルズ世代」という言葉がある世界と無い世界)が、過去をどう説明するかの違いとなってくるのではなかろうか?