浦島太郎とウラシマ効果(その3)

浦島太郎の話をウラシマ効果で説明するためには、太郎の故郷と龍宮城との間の移動時間が地上での約300年(または700年)に相当すると考えなければならない。あるいは龍宮城それ自体が光の速さで移動しているとしなければならない。だがそれを理解している人は意外に少ないように思われる。


もちろんちゃんと理解している人もいる。
童話「浦島太郎」は宇宙旅行へ行った地球人の実話だった!?【相対性理論】ウラシマ効果 - NAVER まとめ

"昔話『浦島太郎』では、浦島太郎が竜宮城で3年過ごすうちに、地上は300年が経っていた。この現象を相対性理論で説明するには、竜宮城が光速の99.995%で飛んでいたと考えることができる。"

この人は「竜宮城が光速の99.995%で飛んでいた」と書いている。

"亀が宇宙船だったらどうか。光に近い速さで地球から「竜宮城」という星、またはスペースステーションに行ったとしよう。その際に相対性理論により地球と時間のズレが150年生じてしまった。同様に帰った時に150年。滞在期間と足し合わせると約300年になる。"

この人も理解している。しかし龍宮城(スペースステーション)自体が光速で移動しているのではなくて、宇宙船(亀)による移動時間が300年に相当するとした場合、文学上の浦島研究とは見解が異なることになってしまうのである。


というのも、3年が300年(710年)になる理由は龍宮城の時間が現世界の時間と異なるからというのがほぼ一致した見解だからだ。それは「四方四季」の描写によって説明されている。

 その竜宮城がいかなるところかといえば、お伽草子『浦島太郎』で強調されるのは、宮殿の東西南北の戸を開けるとそれぞれの方角の庭が春夏秋冬の景色になっているということである。この、同時に存在する<四方四季>の景色は、浦島太郎の行った竜宮城の性格を考える場合にきわめて重要な設定である。もちろん、四方四季の景はお伽草子『浦島太郎』に固有の表現ではなく、各種のお伽草子の異界に描かれ、そこが移ろう時間の存在しない世界つまり永遠の理想郷であることを象徴する様式としてあったとみなくてはならない(徳田和夫『お伽草子研究』三弥井書店、昭和63年12月)。そして、この表現は巌谷小波『日本昔噺』にも受け継がれているが、その不思議な風景は、竜宮城では三年間だと思っていた時間が、地上では七百年も経過していたという、地上と異界との時間の落差を主題とする浦島物語にとって欠かすことのできない設定なのである。

竜宮城−浦島太郎と蓬莱山幻想(三浦佑之)


もし龍宮城までの「宇宙船」での高速移動が時間の相違の原因だとするならば、龍宮城における「四方四季」の光景は意味のないただのお飾りになってしまうのである。


もちろん「その通りでそれに何の意味もない」とか、「ウラシマ効果を知らない人が合理的な説明をするために四方四季を追加したのだ」という説明は可能だけれども。



ただ、俺がここで考えているのは「浦島太郎」の物語は史実か?ということではなくて、物語の「浦島太郎」は、どういう設定になっているのかということであり、物語の「浦島太郎」においてはウラシマ効果に類似する設定は想定することができないということだけは言えるだろうと思うということ。