赤ちゃんポストと地方自治

個人的には「赤ちゃんポスト」の問題に関心があまりない。


ただ、安倍首相やその他政治家が「赤ちゃんポスト」に否定的な見解を表明していることに対する反応の一部に違和感がある。


もちろん、賛成派から見れば、否定的見解を発する人は意見の異なる人であり、その異なる意見を批判すること自体がおかしいということではない。違和感があるのは、中央の政治家と地方自治体とが対立するのはけしからんと言っているかのような意見がままあること。言っている本人が自覚しているのかはわからないが、そう見えてしまうものがあること。


ここで「赤ちゃんポスト」についての簡単な経緯。熊本市の慈恵病院が昨年12月に「赤ちゃんポスト」の設置を熊本市に申請。厚生労働省が2月に設置容認。4月5日に熊本市が認可。5月10日から運用開始。厚生労働省が容認した理由は「明らかに違法とは言い切れない」から。


「小さな政府」を支持する俺の目から見れば、極めて妥当な判断。だけど、実際の中央行政機関というものは、違法ではなくても、陰に陽に地方行政に介入して、中央の意向に沿わないものは認めないといったイメージがある。そうした目で見れば、行政のトップである首相が否定的見解を述べている問題を、「違法とはいえない」という理由で容認するというのは画期的なことだというのが俺の感想(俺が知らないだけで、実は良くあることなのかもしれないけど)。


中央が積極的に介入しないということは、無論、逆に言えば、何か問題が発生すれば、それは地方自治体の責任であるということでもある。しかし、それが本当の地方自治というものであろう。その場合、中央と地方の意見が対立することがあるのは当然であって、無いほうが不自然だ。大いに対立したらいい。


だから、安倍首相の見解を批判するのは結構なんだけど、それと同時に、地方に過度な介入をするなとか、地方自治体は、中央が何と言おうと自治を貫けというような主張があっても良さそうなものだけど、そういう主張はあんまり見かけない。


例えば、検索で見つけたのだが、「山陰中央新報」の3月7日付論説。
赤ちゃんポスト/子育て支援を見直すべき

賛否の議論は必要だが、政治や行政は、一病院が動かざるを得ないような子育ての実態にこそ目を向けてほしい。

など、俺からすれば、「政治や行政は、一病院が動きやすいよう、過度の介入は控えるべきだ」であり、

だが、行政は「設置は違法とはいえない」と人ごとのような顔をし、

は、『行政は「設置は違法とはいえない」という姿勢を貫け』となるところ。それが「自治」というものだと思うから。


もちろん「大きな政府」を志向し、中央集権的な政治を求めるのであれば、中央が見解を示し、地方はそれに従うだけでもいいのだが、こういう主張をしている人が、そういうことをわかった上で言っているのか、それとも無自覚で言っているのか、個人的には後者が多いような気がするのだが、よくわからない。