島国根性という謎の言葉

島国根性(goo辞書)

島国に住む住民にありがちな、視野が狭く閉鎖的で、こせこせした性質。

辞書的な意味はわかるんだけど、この言葉の由来がわからない。いつ、誰が、何のために、どういう経緯で使い始めたのだろう?これが日本古来の言葉でないのはまず間違いない。おそらく幕末か、明治維新以降の新語だろうと思う。日本は確かに「島国」だ。そして大昔から「島国」だ。そんなことは古代の人も知っていた。海の外には中国やインドがあることも知っていた。当時の人達が、日本が島国であることをもって、日本民族の特殊性を自覚していたかどうかが気になる。幕末・明治以降に出来た言葉だとすれば、黒船来航による西洋との接触が関係ありそうに思われる。


などと気になって、検索していたら、ズバリ疑問に答えてくれる論文があった。


日本人論の反省(加藤秀俊データベース)

 日本も島国なら、イギリスも島国だと申しましたけれども、島国ということにはむかしから人々は着目しておりました。大陸との交渉がむずかしかったということがあります。しかし、明治になりますと、日本がモデルにした国はイギリスでありました。このころの学者が書いている書物を読みますと、イギリスは島国である、日本も島国である、イギリスは島国であるという利点を活用して、あれだけ大きな成長をとげた。だから日本もイギリスにならって、おなじように島国としての特性をいかすべきだ、というふうに書かれております。こういう意味での島国根性ということばを最初につかったのは久米邦武という明治の哲学者です。久米邦武は、イギリスという国のたいへんすばらしい産業をみて、イギリス人は島国に住んでいるから、たくさんの船をもって世界中と貿易をして、七つの海の王者になった。日本もそういうすばらしい島国根性をもたなければいけない、と最初はそう書いてある。ところが、いつのまにか人というのはおそろしいもので、ことばの意味が誤解に誤解をかさねて、こんにち島国根性というのは内にとじこもって、外をみないことをいうようになった。そもそもこのことばをつかいはじめた久米邦武の使いかたからいいますと、島国根性はじつにりっぱな精神ということになるでしょう。つまり、島国が日本の特長だ、というようなことをいっていると、イギリスだってそうではないかということになります。島国だ、というのは地理的に特殊な条件ではありません。

何と「島国根性」は元来良い意味の言葉であったのでありました。


(追記)上と同じく加藤秀俊氏の発言。
第107回国会 国民生活に関する調査会 第2号

 最後に一言、あと二、三分ございますので、その間に結びのようなことをちょっと申し上げておきたいのでございますが、日本人はというようなことをよく私ども口にいたしますけれども、そして日本人論というのが大変盛んでございますが、そこで、常にというかしばしば引用されるのは島国根性という言葉なんでございます。島国根性というのは私どもが日本列島の内側にこもって外側と交渉を持たない、何か内側だけでごしょごしょやっている、それを島国根性というふうに一般に理解されておりますが、この言葉といいますか、この考え方を最初に示しましたのは岩倉使節団随行いたしました久米邦武という学者でございました。
 久米邦武がアメリカからイギリスに渡りまして、イギリスで友人を訪ねたんです。ところが、訪ねてみましたらその友人がおりませんで、下宿のおばさんが、彼は今コンチネントに行っていると言ったというんです。コンチネントというのはヨーロッパ大陸のことでございます。なるほどイギリスというのはフランスやオランダのことをコンチネントと言うのか。そこで、久米邦武がイギリスで、ロンドンの港、マンチェスターの工業地帯などを見まして、毎日のように出入りしていく船を眺めながら、なるほどイギリスは島国である、島国だから七つの海を渡ってこんなにもたくさんの貿易が行われているんだ。振り返ってみれば日本もまた島国である。とするならば、イギリスのように外に向かって毎日船が出入りして、おおらかにほかの民族だの文物だのを取り入れる、そういう精神を持って国づくりをしていかなければいけない。それを久米邦武は島国精神と呼んだわけでございます。これは記録に残っている一番古い言葉でございまして、これを後に島国根性という全く逆の意味に取り違えたのは、ちょっとその学説史を御紹介するのはここの趣旨じゃございませんから省略いたしますけれども、その後のことでございます。

「後に島国根性という全く逆の意味に取り違えた」経緯が省略されているんだけど、そこが知りたい。


(追記)2009/8/6
久米邦武はどこで「島国根性」という言葉を使ったのだろうか?
特命全権大使米欧回覧実記」ではないかと思って「近代デジタルライブラリー」でざっと見てみたのだが俺には見つけることができなかった(見落としかもしれないが)
この件は保留にしたほうが良さそうだ。