本当は恐ろしい「ヘンゼルとグレーテル」(3)

あまりにも「やんちゃ」なので、親から「鬼退治」の口実で家から追い出されたという話は「桃太郎」だけではない。


ヤマトタケルもまた、あまりにも「やんちゃ」であったので家を追い出された。どのくらい「やんちゃ」であったかというと、自分の兄の手足をもぎ取って、薦(こも)に包んで投げ棄てたというくらいに「やんちゃ」だったのだ。そこで父の景行天皇ヤマトタケル熊襲征伐を命じたというわけ。熊襲を征伐することが大和朝廷の利益になるとはいえ、ここで天皇ヤマトタケルに出征を命じた最大の理由はタケルを恐れたから。


タケルを自分の側に置いておきたくないと言う思いもあっただろうが、「死ねばいいのに」とすら思っていたかもしれない。だがタケルは見事に敵を倒した。そして都に戻ってくると、すぐに天皇は東征を命じた。これも本当の理由はタケルを近くに置いておきたくないということだろう。ここまでくるとタケルも気が付いて、伯母のヤマトヒメノ命に「天皇は自分が死んでしまえば良いと考えているのだ」と言って嘆き悲しんでいる。


なお、タケルが熊襲を征伐するときに女装して敵を油断させるとか、イヅモタケルを征伐するときに、前もって偽の刀に取り替えておくとかの計略を用いているが、「ヘンゼルとグレーテル」も魔女に対して計略を用いている。


そういう見方をすれば、この伝説は、世界に流布する同様の伝説の日本版であって、大和朝廷の日本統一を1人の英雄の物語として記述したというような性格のものではないように思う。ただし、これは『古事記』での話であって、『日本書紀』だと、このような親子の対立は見られない。伝説としては『古事記』の方が本来の姿を伝えているのだろうと俺は思う。