影取池伝説は農耕伝説なのか?

770451a「日本の歴史と神話・伝説」

 こうした神話の残存が後世顕在化して行き、「女殺し」の主題の持つ伝説を生み出していることは注意すべきです。伝説の上で、田植えのときに殺害された女の話は、かつて山中太郎が注目しました。田植えに際して、昼飯を運ぶ女性が中心であり、オナリ或いはヒルマモチと呼ばれ、何らかの事故で死を遂げてしまいます。例えば足利市の水仕神社の縁起に拠りますと、この神社の祭神はかつて、土地の長者の家に仕えた下女でした。女は長者の家の赤子の子守をしていましたが、ある年の田植えの時期に、早乙女たちの昼飯を田圃に運んでいる最中、主人夫婦から預かっていた赤子を死なせてしまいました。そのため狂乱状態となった下女は、近くの池に投身自殺をしてしまいました。それ以後、池の側を通る人の影が水に映ると、池に呼び込まれてしまうと云うので、その池を「影取りの池」と呼んだと云う伝説が生じています。この女性は神に祀られましたが、その神像は、頭上に飯櫃を戴き右手に杓文字を持つ姿でした。この女性は田植えの早乙女たちの弁当を運ぶ役に位置付けられていますが、本来は田の神に神饌を奉納する巫女であったと思います。そして乳呑子を何時も抱いていたと云いますので、生殖力を持つ女性を象徴シンボライズしていることにもなります。これが長者に仕える下女即ち若い女で、田植えの最中に自殺したと云う筋になっています。

昨日紹介した、栃木県足利市「水使神社」の影取池伝説についての民俗学者宮田登氏の解釈。昨日は気付かなかったけれど、そういえばこの伝説は昔どこかで読んだことがあった。


しかし、各地に残る「影取」の伝説を見ると、農耕と必ずしも結びついているとは言えないように思う。戸塚区に残る影取伝説の登場人物は明らかに非農業民だし。
藤沢市|藤沢を知る「影取池と大鋸」


ただし、「その神像は、頭上に飯櫃を戴き右手に杓文字を持つ姿でした」というところは気になる。浄瑠璃姫や影取池の伝説がある多摩の唐木田地区にも「おしゃもじさま」の伝説があるからだ。
2008.11.01(多摩ニュータウンタイムズ)


シャクシについてはこの考察が興味深い。
シャクシ・女・魂−日本におけるシャクシにまつわる民間信仰−(王秀文 日文研フォーラム)


が、話が大きくなりすぎて手に負えなくなってきたので、これでおしまい。