信長はなぜ三郎なのか(その7)

☆信長の蛇退治(3)
少し話は脱線するけれど、壱岐三郎に討たれた伊吹の弥三郎が「井の口」にまつられ、三郎信長を暗殺しようとした者の名が「井口太郎左衛門」だったのかについての考察。


「井の口」とは何かというに、

せき止めてある水を落とす口。また、用水などの取り入れ口。

井の口 とは - コトバンク
とある。


「用水などの取り入れ口」ということでは「蛇口(じゃぐち)を連想するけれど、
蛇口(じゃぐち) - 語源由来辞典
を見ると、ヨーロッパでライオンであったものが、日本では龍になり、龍の元になったのが「蛇」だから「蛇口」となったということで、あまり関係が無さそうだ(とされているが本当にそれでいいのか個人的には多少疑問に思う。ミシャグチ様とか関係あるんじゃなかろうか。すると甲賀三郎と関係があるかもなんて)。
(※ちなみにジャグジーは本当はジャクージなんだけど日本ではジャグジーになっちゃったそうな)


また「井戸の口」ということでは、前に「おしゃもじさま」について調べた時の「蛇苦止の井」を連想させる。

蛇苦止堂 比企の乱で井戸に飛び込んで自害したという若狭局を祀る。自害した若狭局は、後に北条政村の娘に霊となって憑いたことから祀られた。
蛇苦止の井 若狭局が身を投げたという井戸

妙本寺 - Wikipedia


それに関連した「吾妻鑑」の記事がある。

相州政村の息女邪気を煩い、今夕殊に悩乱す。比企判官の女讃岐の局の霊祟りを為すの由、自託に及ぶと。件の局大蛇と為り、頂に大角有り。火炎の如き、常に苦を受け、当時比企谷の土中に在るの由発言す。これを聞く人身の毛を堅くすと。

吾妻鏡文應元年10月

今日相州(政村)一日経を頓写せらる。これ息女邪気に悩む。比企判官能員の女子の霊託に依って、彼の苦患を資けんが為なり。夜に入り供養の儀有り。若宮の別当僧正を請じ唱導と為す。説法の最中、件の姫君悩乱し、舌を出し唇を舐り、身を動かし足を延ばす。偏に蛇身の出現せしむに似たり。聴聞の為霊気来臨するが由と。僧正加持せしむの後、惘然として言を止む。眠るが如くして復本すと。

吾妻鏡文應元年11月


「若狭局」と「讃岐局」の関係が良くわからないけれど、とにかく姫は蛇身の怨霊となったのであった。


このように井戸と蛇は密接な関係があるのだが、しかし別の考え方もできるかもしれない。



というのも「井の口」(いのくち)は「猪の口」・「亥の口」とも表記されることがあるのだ。すると蛇と猪の関係が気になる。


干支では蛇(巳)と猪(亥)は丁度正反対の方角だ。
干支 - Wikipedia


こうしてみると蛇と猪は犬猿の仲なのかもしれない。ということで、それに関する情報はないかと検索してみると、
南方熊楠 十二支考 猪に関する民俗と伝説(青空文庫)
があった。

 猪に関する伝説を書くに当り、この篇の発端に因(ちな)んで野猪と蝮蛇の話を述べよう。けだし野猪に限らず猪の類は、皆蛇を食う(アリストテレスの『動物史』九巻二章。プリニウスの『博物志』九巻一一五章)。ところが日本では家猪が久しく中絶と来たから、専ら野猪のみ蛇を制するよう心得たのだ。

以下、猪が蛇の天敵であることを述べている。


このあたりに「いのくち」の謎が隠されているのではなかろうか?