アマテラスとタカミムスヒ(13) スサノオの太陽神的性格

日本書紀』本文におけるイザナキ・イザナミ二神が産んだ「淡路島」「アマテラス」「ツクヨミ」「スサノオ」「ヒルコ」は全て目的外の子であり、すなわち「失敗作」だ。最初の子作りに失敗したという神話は世界中に存在するけれど、これほど連続して失敗するという話は寡聞にして聞かない。


これをどう考えればよいのかといえば、大元の神話は「最初の子作りが失敗した」というものだったのが後に分かれて複数の子にこの要素が引き継がれたのだと考えるべきだろう。既に書いたことだが『日本書紀』本文における三貴子誕生の経緯は以下のようなものだと考えられる。

(1)「男女二神の最初の子作りが失敗した」
(2)最初の子が「日神」だという要素が加わる。また「淡路島」だという話もできる。
(3)「日神」「月神」の「双子」が生まれたという要素が加わる
(4)さらに「風神」のスサノオが加わり「三つ子」に変化する

ここからさらに「日神」と「アマテラス」が混同されることによって「日神」が太陽神的性格を失い、それを補うために「ヒルコ」が挿入されたのだろう。


なお、いきなり「三つ子」ではなく「双子」の段階があっただろうと考えるのは『古事記』などでは三貴子がイザナキの禊によって誕生し、左目からアマテラス、右目からツクヨミ、鼻からスサノオが生まれたことになっているからで、両目から日月が生まれるという神話は世界各地にあるけれど、鼻から生まれるというのは知らない(無知だからかもしれないが)ので、後から付け足されたのだろうと思う。このへんはもっとじっくり考えないといけない)。


そんなわけで、これらの神々は全て「失敗作」という要素を持っているわけだ。もっとも日神と月神は「優秀すぎる」という話になっているけれど、「天下の主者」を生むという目的には適わないのだから「失敗作」であることに変わりはない。


ところで『日本書紀』の原文を見ると以下のようになっている。

《第五段本文》次生海。次生川。次生山。次生木祖句句廼馳。次生草祖草野姫。亦名野槌。既而伊弉諾尊伊弉冊尊共議曰。吾已生大八洲国及山川草木。何不生天下之主者歟。於是共生日神。号大日〓貴。〈大日〓貴。此云於保比屡〓[口+羊]能武智。〓音力丁反。一書云。天照大神。一書云。天照大日〓尊。〉此子光華明彩。照徹於六合之内。故二神喜曰。吾息雖多。未有若此霊異之児。不宜久留此国。自当早送于天、而授以天上之事。是時天地相去未遠。故以天柱、挙於天上也。次生月神。〈一書云。月弓尊。月夜見尊。月読尊。〉其光彩亞日。可以配日而治。故亦送之于天。次生蛭児。雖已三歳脚猶不立。故載之於天磐〓[木+豫]樟船、而順風放棄。次生素戔鳴尊。〈一書云。神素戔鳴尊。速素戔鳴尊。〉此神有勇悍以安忍。且常以哭泣為行。故令国内人民。多以夭折。復使青山変枯。故其父母二神勅素戔鳴尊。汝甚無道。不可以君臨宇宙。固当遠適之於根国矣。遂逐之。

日本書紀(朝日新聞社本)


ヒルコは「雖已三歳脚猶不立」(三歳になっても足が立たなかった)。一方スサノオは「且常以哭泣為行」(泣いてばかりいた)。どちらも赤ん坊のような状態だったという点で類似している。またヒルコは「順風放棄」(風にしたがって放棄された)とあり「風」の要素がある。『古事記』などでスサノオは鼻から生まれており「風の神」的要素を持っている。そしてヒルコの誕生が月神スサノオの間に置かれているのも本来は「ヒルコ=スサノオ」だった名残りかもしれない。


注目すべきは「此神有勇悍以安忍。且常以哭泣為行。故令国内人民。多以夭折。復使青山変枯。」の部分で、スサノオが常に泣いているので、国内の人民が多く死に、また青山が枯れたという。これは一体何を表現しているのだろうか?


検索してみるとこれは「火山の噴火」を表しているという説がある。果たしてそうだろうか?確かにスサノオを火山とする説はある。


しかし、俺はこれはまさに太陽を表現しているのだろうと思う。


既に書いたが俺は三貴子は元々はは男女二神が最初に「日神」を生んだという神話が分裂したものであって「失敗作」という要素を継承していると考えている。引き継がれたのはそれだけではなくて、太陽神的要素も引き継がれていたのだろう。「此神有勇悍以安忍。且常以哭泣為行。故令国内人民。多以夭折。復使青山変枯。」というのは太陽神の要素がスサノオにも引き継がれていたということではないだろうか。


※ なおツクヨミに関しては「失敗作」という要素以外には直接「日神」の要素は引き継がれていないようにも思われるが、『日本書紀』(一書第十一)にツクヨミが保食(ウケモチ)の神を殺すという食物起源神話があるのに対して『古事記』にはスサノオオオゲツヒメを殺すという同様の話がある。ツクヨミスサノオが混同されているとも考えられるが、これも本来は太陽神の話だったものが両者に引き継がれたものだとも考えられるのではなかろうか?


(追記14:45)
書き忘れていたが、スサノオ高天原に昇った後、出雲に天下りし、さらに根の国に赴いた。これは太陽の軌道を表現しているのではなかろうか?