天孫が葦原中国を支配する正当性

天孫降臨を命令したのは誰か
の続き


天孫降臨を命じたのは本来の神話ではタカミムスヒであったのが後にアマテラスになったというのが研究者の共通認識なのだそうだ。だがド素人の俺はそれに納得していない。


さて、天孫降臨神話を史実もしくは史実を反映したものだと考える人々は、これを天孫族が出雲王朝を屈服させたものだと受け取るケースが多い。


すなわち「国譲り」の実態は征服だと考えているわけだ。


天孫降臨神話が史実もしくは史実を反映しているという考え方を俺は否定するけれど、これを純粋に神話として考えた場合にも天孫葦原中国を支配する正当性という問題は当然考えなければならない


日本書紀』本文によればアマテラス(オオヒルメ)はイナナギ・イザナミが「天下之主者」として産んだ子だ。しかしアマテラスは光輝いていたので、二神は喜んで「この国に留めておくことはよろしくない」といって天に上げた。次に月神を産んだがこれもまた光輝いていたので天に上げた。次にヒルコを産んだが3歳になっても足が立たなかったのでアマノイワクスフネに乗せ放棄した。次にスサノオを産んだが残忍で常に泣いていて多くの人民が死に青山が枯れた。そこで父母はお前は宇宙に君臨することができないといって根の国に追放したとある。


俺が解釈するに、イザナギイザナミは「天下之主者」を産もうとしたが、結局のところ産むことができなかったということだと思う。つまり天下(葦原中国)の主は存在しなかったということだ。


次に『日本書紀本文』はスサノオ根の国に行く前に姉に会うために高天原に行ったが、アマテラスはスサノオを見て国を奪いに来たのだと考え、スサノオは無実を証明するためにアマテラスとウケヒをした。その後スサノオの暴虐に耐えかねたアマテラスは岩戸に閉じこもるということがあり、神々はスサノオ高天原から追放した。次にスサノオは出雲に天降り、ヤマタノオロチを退治してクシイナダ姫と結婚してオオアナムチが産まれ、スサノオ根の国に行った。その次が「天孫降臨」となる。


アマテラスの子、オシホミミはタカミムスヒの娘タクハタチジ姫と結婚してニニギを産んだ。タカミムスヒはニニギを葦原中国の主としたいと考えた。しかし葦原中国は邪神がいて草木も言葉を話す。そこで葦原中国を平定するためにアメノホヒを派遣したがオオアナムチに媚びて帰ってこなかった。で、その後いろいろあって最終的にはオオアナムチが国譲りしてニニギが天降ることになる。


ここで注目しなければならないのは、葦原中国は無主の土地だったこと。そして葦原中国が平定されていなかったということだろう。もう少し詳しくいえば『日本書紀』の一書によれば葦原中国はオオアナムチによって平定されたことになっているが、本文ではそうなっておらず「邪神」扱いであり、葦原中国を最初に平定したのは高天原の神々だということだ。


だが、先に書いたように、アマテラスは「この国(葦原中国)に留めておくことはよろしくない」として天に上げられた神だ。一方スサノオは宇宙に君臨することができないと根の国に追放された神だ。どちらも葦原中国を支配する正当性を有しないともいえる。だから単に平定したというだけでは正当性に不安があったのではなかろうか?


そこに天孫降臨を命じる神がタカミムスヒである理由が存在するのではないだろうか?


なお『日本書紀』本文では天孫降臨の段でタカミムスヒがいきなり登場する。この神がいかなる神なのかの説明は全く無い。文脈上は高天原の神の一柱で高い地位にいることが推測されるが、本来的には天地を含む「宇宙」に君臨する神ではなかろうか?溝口睦子氏が指摘する顕宗天皇の記事では、天地を鎔造した神である。だからこそ皇孫を葦原中国の主とすることが可能なのだろう。


(つづくかも)


※ もちろん本来がタカミムスヒだったのをアマテラスにしたために正当性に問題が生じたと解釈することも可能だが、諸々のことを考えると俺は正当性に問題があったからタカミムスヒを後付けしたのではないかと思うのである。