ウィキペディアによると
赤ずきんとおばあさんが狼のお腹から生きたまま救出されるというエピソードを追加したのは彼ら兄弟である
⇒赤ずきん - Wikipedia
ということだそうだ。食べられておしまいじゃあんまりなので付け加えたということだろうか。
考えて見れば、狼に食べられたお婆さんと赤ずきんが、狼の腹を割いて出てきたときの状態はそれはそれはグロいものに違いない。五体満足で出てくるためには、消化の途中だという問題はスルーしても、狼が彼女達を「食べた」というよりも「飲み込んだ」ということでなければならない。
と思って確かめて見ると、
あんぐりひと口に、おばあさんをのみこみました。
赤ずきんちゃんを、ただひと口に、あんぐりやってしまいました。
⇒グリム兄弟 Bruder Grimm 楠山正雄訳 赤ずきんちゃん ROTKAPPCHEN
とある。たしかに狼は咀嚼していない。なお、
わかい、やわらかそうな小むすめ、こいつはあぶらがのって、おいしそうだ。ばあさまよりは、ずっとあじがよかろう
とも書いてある。飲み込むんだったら「やわらかそう」とか「油がのってる」とかあまり関係ないんじゃないかと思わなくもないけれど…
さて、ここでいきなり「我が子を食らうサトゥルヌス」について。
何の関係があるのかと思うだろうが、実際俺も「赤ずきん」とは全く無関係に、偶然ほぼ同時期に調べていて共通点に気付いたのである。
ローマ神話に登場するサトゥルヌス(ギリシア神話のクロノスに相当)が将来、自分の子に殺されるという預言に恐れを抱き5人の子を次々に呑み込んでいったという伝承をモチーフにしており、自己の破滅に対する恐怖から狂気に取り憑かれ、伝承のように丸呑みするのではなく自分の子を頭からかじり、食い殺す凶行に及ぶ様子がリアリティを持って描かれている。
ゴヤの絵だとサトゥルヌスは息子をバリバリ食っている。ルーベンスの絵でも息子の胸のあたりを齧っていて血が出ている。
しかし、本来の伝承では「丸呑み」しているのだ。
興味が沸いたので調べてみると、この神話には続きがある。
父であるウーラノスの性器を、刃が魔法の金属・アダマスでできた鎌で切り取って追放するが、自身も父親と同様ギガースたちをガイアの胎内に押し込めていたためガイアの怒りを買い、後に息子であるゼウスに討たれた。彼は父同様、子にその権力を奪われるという予言を受けたため、子供が生まれるたびに飲み込んでしまったという。最後に生まれたゼウスだけは、母のレアーが偽って石をクロノスに食わせたために助かった。クレタ島で密かに育てられたゼウスはクロノスに兄弟たちを吐き出させ、かれらと力をあわせてクロノスらティーターン神族を倒した。
クロノス(サトゥルヌス)は息子達を飲み込んだ。
ゼウスの代わりに石を飲み込ませた。
クロノスの腹の中にいたゼウスの兄弟姉妹が(五体満足で)吐き出された。
このあたりの神話要素が「赤ずきん」とそっくりではないか。
俺はギリシャ・ローマ神話を本格的に研究したことがないのでこの話を知らなかった(もしかしたら見たことがあったかもしれないが頭に残っていなかった)。しかしギリシャ・ローマ神話に興味のある人にとっては常識の範疇に入るような有名な話ではないかと思われる。グリム兄弟も知っていただろう。
だとすれば、グリム兄弟は「赤ずきん」にこの神話要素を取り入れたということだろうか。兄弟が採集した話に既に取り込まれていたという可能性もあるようにも思えるが、よくわからない。
※ なお「赤ずきん クロノス」「赤ずきん サトゥルヌス」でGoogle検索してもそれらしき指摘は何もヒットしない。誰も気付いてないということだろうか?外国ではどうかと思って「Little Red Riding Hood Cronus」で検索してもヒットしない。