日本の幽霊の手(番外) 狂骨(その4)

「下半身がぼやけて足が見えない(足が無い)幽霊」と、「下半身が描かれているけど先細りして足があるべきところに無い幽霊」は同じ思想が背景にあるのか?ルーツは同じなのか?俺は今までこんなことは考えたこともなかったけれど、誰か考察している人はいるのだろうか?幽霊画を研究している人はプロアマ共に多くの人がいるので、さすがに考察されているだろうと思うけれど、単に「幽霊 足」で検索しただけでは、例の円山応挙説の考察のような起源の話ばかりがヒットして、その後の発展過程についての考察を見つけることができない。じゃあどんなキーワードで検索すればいいのか見当もつかない。とりあえず自力で考えるしかない。


さて「狂骨」の絵は見れば見るほど不思議な絵だ。既に指摘したように「井戸が小さすぎる」「下半身が先細りしている」「手の先がどうなっっているのか意味不明」「服の胸のボタンらしきもの」。


あと毛髪。どことなく西洋風に見える。しかしこれは本当に毛髪なんだろうか?一部あるいは全部が毛髪ではなくて何かをかぶっているようにも見えなくもない。そもそも骸骨に毛が生えているというのがおかしい。なんか漫画とかにはあるから軽くスルーしちゃいそうだけれど、髑髏に髪の毛が生えている絵というのは非常に珍しいのではないだろうか(よくわからんけど)。



それに付け加えて、「狂骨」本体ではなく絵全体を見ているとどうしても気になるのが「背景にある長い棒」のことだ。


これは「はねつるべ」と呼ばれるもので、画像検索すれば同型の釣瓶の写真を見ることができる
はねつるべ - Google 検索


「狂骨」は井戸の妖怪だから、ここに「はねつるべ」があるのは当然のことのようにみえる。この絵を純粋に妖怪「狂骨」の絵としてみれば何も不思議なことはない。


だが、この絵が画家の純粋なオリジナルではなくて何かの絵を参考にしたものだと仮定した場合、その過程を想像するのならば話は違ってくる。


本来は「はねつるべ」で無かったものが「はねつるべ」と解釈されて、その結果として本来は井戸の妖怪ではなかったものが井戸の妖怪になってしまったという可能性は十分あるのではないかと思うのである。


既に書いたように、本来は「煙で足の見えない幽霊」だったものが、それを知らない絵師によって「足の無い幽霊」になったという説がある。また「ろくろ首」は本来は首が長いのではなくて首が飛んでいる様子(あるいは糸)の絵画的表現が、誤解によって長い首になったという説がある。


傑作なのは「ぬらり栗」という妖怪で、これは本来はあの有名な「ぬらりひょん」だったらしい。「ぬらり票」を「ぬらり栗」と誤読して、それだけでなく栗にふさわしく体色が栗色で栗の妖怪みたいになっているそうだ。あくまで推測にすぎないけれど十中八九そういうことだろう(洒落としてやってるのかもしれないけど)。
奴羅利栗 : 【妖怪図鑑】 新版TYZ


※ 妖怪の世界でこのようなことが頻繁に起きるのは、本物の妖怪を見たことがある人がいないからだろう。龍や麒麟などの聖獣も実在しないけれどここまで変化しないのは、古来聖獣の絵や彫刻が多数あって知識が十分あるからだろう。実在するけれど見るのが困難な虎や象も同じで、本物の虎や象とは微妙に違うけれど絵画の世界においては統一されているように思う。


で、もしも「はねつるべ」が本来は別のものだったとしたら、それは何だっただろうか?


俺はその「はねつるべ」の形状および「狂骨」が骸骨の姿であることを考慮すれば、それは「死神の鎌」ではなかったかと妄想せずにはいられないのである。


いやさすがに突飛すぎるとは俺自身も思うんだけど…


でも仮に本来は死神だったとしたら、手の先の意味不明さは、死神のローブの成れの果てではないかという推理が可能なような可能でないような…


「Death Robe」の画像検索。
Death Robe - Google 検索


まあ、このへんは暴走してるので「ばかじゃねーの」と思ってくれても構わない。


(つづく)