日本の幽霊の手(番外) 古今未曾有 工夫の幽霊(補足)

終わりにするつもりだったんだけど大事なこと書き忘れてた。


歌舞伎に「漏斗(じょうご)」という衣装がある。

歌舞伎衣装の一つで、幽霊の着る衣装です。裾が細くしぼんで漏斗(じょうご)のようになっています。「四谷怪談」のお岩などが着るものです。

漏斗とは - きもの用語大全


いろいろ検索してみたんだけれど画像が見つからないので具体的なイメージがわからない。けれども、裾が細くしぼんで漏斗のようになっているというのは、まらに「ランプの魔神」的なものを想像させる。


で、これが円山応挙の絵がヒントになって考案されたという情報がある。
歌舞伎のおはなし 第128話 漏斗


しかし、円山応挙の絵というのが「反魂香之図」(応挙の幽霊画の可能性が高いのはこの絵だけだという)のことならば、足があるのか無いのか以前に下半身が見えないので、これが漏斗のヒントになるのか非常に疑わしい。


「応挙の絵」というのが「応挙の絵だとされている絵」のことだとすれば、先が細くなっている絵はあるかもしれない。その場合、その「応挙の絵とされる絵」が本当に応挙の絵なら絵の方が先だけれども、逆に歌舞伎をヒントに書かれた絵なのかもしれない。


で、この漏斗の工夫をしたとされている人は尾上松助という役者だそうだ。

…寛政年間(1789‐1801)以降,刺激的・衝撃的な戯曲を求める志向が強まるにおよんで,観客を恐怖させる目的の怪談狂言が現れた。1804年(文化1)河原崎座初演の《天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)》(4世鶴屋南北作)における乳母五百機(いおはた)の霊(初世尾上松助所演)がその嚆矢(こうし)とされる。松助はこの役で,乱れ髪や漏斗(じようご)と称する先細りの裾の鼠色の衣装などを円山応挙の絵を参考に工夫し,また引込みには仏壇へ飛びこむなどの手法で演じ,観客を驚かせた。…

尾上松助(初世)(おのえまつすけ)とは - コトバンク


※ ここにも「円山応挙の絵を参考に工夫し」とある。そう書かれた史料が存在するのだろうか?それとも〈参考にしたと考えられる〉ということなんだろうか?このあたりよくわからない。


ウィキペディアに画像がある。この「小幡小平次」の衣装が「漏斗」なんだと思われる。ついでに手の形も幽霊のステレオタイプになっている。
尾上松緑 (初代) - Wikipedia


そんでこの尾上松助の養子が三代目尾上菊五郎なのだった。


※ なお「漏斗」については

もともとは、「うぶめ」と呼ばれた女性の幽霊の役に使われた衣裳でした。うぶめはお産で死んだ女性の体から飛び出ると言われています。赤ん坊を抱いて現れて、通りすがりの人にその赤ん坊を抱かせようとします。

歌舞伎・鶴屋南北|文化デジタルライブラリー
という説明がある。「うぶめ」が登場する歌舞伎が何なのかはわからない。「小幡小平次」は男だし、上に書いてある「天竺徳兵衛韓噺」の五百機は「うぶめ」ではなくて乳母だろう。尾上松助が「うぶめ」を演じたことがあるのか?それともそれ以前からあったということなのか不明。


※ 話が散漫になるけれど
歌舞伎・鶴屋南北|文化デジタルライブラリー
にある『「三ヶの津御評判の提灯の幽霊」初代歌川国貞画 お岩を演じる3代目尾上菊五郎』という画像の幽霊も先が細くて手がステレオタイプ。ただし足の先が細くなってついには紐のようになっている。これは実際に舞台で可能なんだろうか?


こうしてみると幽霊のステレオタイプ尾上松助と三代目尾上菊五郎の影響が大きいように思われる。では彼らは何をヒントにしたのか?通説のように円山応挙の絵ということでいいのか?ということが問題になろう。