「空気を読めるほうが実は怖ろしい」(その2)

次に山崎豊子原作の『華麗なる一族』に触れている。


俺は小説もドラマも見ていないが、コラム記事によると、ドラマでは阪神銀行頭取の万俵大介が銀行合併を目論み、そのために前年度の倍の預金獲得計画を打ち上げる。全国支店長会議で万俵は、各支店が申告した月別目標を“思い切った積極目標”に切り替え再申告してほしいと促し、最初に指名された支店長は戸惑いながらも大幅な目標増額を宣言する。それを見た他の支店長も次から次へと後へ続く。最後まで残った支店長の内の1人は、現在の目標額でも達成が難しかったのだが、結局目標を修正した。その支店長は無理なノルマで身体を酷使しすぎたために心筋梗塞を引き起こして他界してしまう。


これが空気を読んでしまったために起きた悲劇であるということらしい。確かにその通りだ。だけど、逆に空気を読まなかったら彼はどうなっていたかといえば、間違いなく干されただろう。それでも死ぬよりは遥かにましだけど、この話だけでは、彼が目標を達成することが不可能だと予測できていたことは窺えるが、そのために過労死することまで予測できていたかはわからない。


そして、もう一つ、ここで考えなければならないのは、この目標は彼にとっては一段と厳しいものであったけれど、その他の支店長にとっても厳しいものであったこと。もし仮に全支店が達成不可能とはいわないまでも、相当数の支店が達成できないという事態になれば、責任が軽減される余地が発生するということ。そして、そういう事態になったとしても、最初に彼だけがノルマを増やさなかったら、ノルマを増やしたけれど達成不可能だった他の支店長と、どっちが有利になるかと言えば、おそらく後者になるだろうということ。


プラス・マイナス要因を加味して、あれこれ考えると、彼はどうするべきだったかというのは、難しい話ですよね。彼にこの「空気」を変える程の能力があれば、また別の可能性が考えられるけれど、おそらくなかったんでしょう。そしてこれは第三者が見れば「怖ろしい」ことかもしれないけれど、銀行にとっては、支店長が1人過労死したからって、たいした損害にはならないですからね。これが過労死が相次いで出るとか、士気が著しく低下するとかなら、何とかしなければって考えるんでしょうけれどね。