前田利家は片目だった説

稲生物怪録」考察の続きを書く前に、前田利家が片目だったという説について書いておく。


前田利家が片目だったという説があること自体を知らない人も多いだろう。それでも、今ネットで「前田利家 片目」と検索すると、それなりにヒットする。俺がこれを知ったのは7〜8年前だが、その頃はそれについて書いてあるものはあまりなかった。


しかも、片目だとは書いてあっても出典が書いてない。というわけで途方に暮れてしまったのだけど、図書館で「寛永諸家系図伝」だったか「寛政重修諸家譜」だったか(コピーしたはずだが今見当たらない)にそれらしきことが書いてあった。


そこには、利家は「稲生合戦」の際、右目の下に矢が刺さったという逸話が載っていた。


稲生の戦い - Wikipedia


俺の知る限りでは前田利家が片目だったという伝説は無いようで、この逸話から利家が片目だったのではないかという説が出てきたようだ。


人名事典『ま』
によると、八切止夫が主張していたという。
(というか、俺も記憶があやふやなんだけど、八切止夫の本で知ったんだと思う。その頃、プチ八切ブームがあって『信長殺し、光秀ではない』の再販本とかも出てた。その時、利家片目説について故志水一夫氏の八切止夫掲示板で質問して返事を貰ったことがあったのだが、現在は消えてしまったみたいだ)


さて、問題は本当に前田利家は片目だったのかということ。


それについて考える際には、まず「先入観」を取っ払わなければならない。それは、「片目であることを隠しておきたいはずだ」という先入観だ。


これも、俺がこの説を知った頃の話で、今ネットを探しても見つからないのだが、出版社だったかのネットの著名な作家(先日亡くなった井上ひさし氏じゃなかったかと思うが記憶が曖昧)のコラム(?)で、伊達政宗は片目であることを隠さなかったのに、前田利家は隠していてけしからんみたいなことが書いてあったのを覚えている。


しかし、俺は、片目であることは隠しておきたいことではなく、むしろ宣伝すべき事柄であったように思うのだ。というのも、知っている人は知ってると思うけれど、「片目の神」の伝承が日本全国に流布しているからだ。「片目の神」の伝承には尖ったもので目を傷つけたというものが多いのだ。


だから、話は逆で、「利家が本当に片目だったのなら、それを隠す必要がないのに、なぜそれを隠したのか?」という疑問を持つべきではないかと思うのだ。そして導き出される結論は「利家は片目ではない」ということになると思う。


考えるべきは、「本当は片目でないのに、片目だと明言はしていないが、片目ではないかと連想させるような伝説」が残っていることの意味だろう。


利家が稲生合戦で目を傷つけたということが事実か否かはわからない。だが、仮に事実だったとしても、傷はそれほど大きなものではなく、それが「伝説化」していったのだろうと思うが、それが自然発生したのか、意図的なものなのかということを考えるに、俺は意図的なものがあったのではないかと思う。


というのも、前田利家は金属臭がすると思うからだ。前に少し書いたが、俺は、織田家中は主の信長を筆頭に、羽柴秀吉佐々成政丹羽長秀などは、金属との関わりが強い人物だと考えている。利家もそうだと思うし、また山内一豊も怪しいと睨んでいる。ちなみに一豊には数年前の大河ドラマでもやってたが、左のまなじりから右の奥歯まで矢が刺さったという逸話がある(だが山内一豊片目説は聞いた事がない)。


ところで、目に矢が刺さった伝説で日本で一番有名なものといえば、鎌倉権五郎の伝説だ。

■厨川
 厨川は金沢柵の北側断崖下を流れる小川で、片目かじかの伝説で有名な川である。後三年の役に鎌倉権五郎景政は年僅か16才の若武者で常に陣頭に立って奮戦し、敵に右眼を射られながらもその敵を射殺してしまいました。同僚の三浦為次がその矢を抜いてやろうとしたが、容易に抜けないので、額に足をかけて抜こうとしたら景政は刀を抜いて為次を下から突こうとしました。驚いてその訳をきくと「弓矢で死ぬことは武士の本望であるが、生きながら面を足でふまれるとは、いかにも堪えられない。汝を仇として自分も死のうと思った」というのです。為次は無礼をわびて改めて膝を屈してその矢を抜いてやり、厨川の清水で傷を洗ってやりました。その後この厨川からは右目の見えない片目のかじかが出るようになり、景政の武勇に感じた珍魚として有名になり、明治以後三代の陛下の天覧台覧を賜っています。

横手市[観光情報 - 後三年の役合戦場]

ここに書かれているように、鎌倉権五郎が片目を負傷した場所の名を「金沢柵」という。加賀前田藩の城下町が「金沢」であることは言うまでもない。


ちなみに加賀の金沢の地名は、「芋掘り藤五郎伝説」に由来するとされる。これも金属伝承として超有名。


(参考)
芋掘り藤五郎伝説についての一考察(1)
その他


これらが単なる偶然のわけがないと俺は思う。