上に書いたような経緯もあって、俺は「稲生」という名に関心があった。「稲生」とは何か?「稲」と書くくらいだからイネに関係するのだろうということは推測できる。
ところで「稲荷」の語源は「稲生り」だと言われている。
『山城国風土記』逸文には、伊奈利社(稲荷社)の縁起として次のような話を載せる。秦氏の祖先である伊呂具秦公(いろぐの はたの きみ)は、富裕に驕って餅を的にした。するとその餅が白い鳥に化して山頂へ飛び去った。そこに稲が生ったので(伊弥奈利生ひき)、それが神名となった。伊呂具はその稲の元へ行き、過去の過ちを悔いて、そこの木を根ごと抜いて屋敷に植え、それを祀ったという。また、稲生り(いねなり)が転じて「イナリ」となり「稲荷」の字が宛てられた。
「稲生物怪録」に関係する神社でも「稲生」と「稲荷」がかぶっている。
広島市南区稲荷町の稲生神社は、豊受大神や大國主命と併せて稲生武太夫を御祭神として祭っている。町名と違う理由は諸説あり定かでない。17世紀初頭に創建されたが原爆で全て焼け、再建された。後にビルの建設で、当初の位置より少し東寄りに再々建されている。昨今の妖怪ブームで前述の荒俣宏や京極夏彦、水木しげるも調査に訪れている。
⇒稲生物怪録 - Wikipedia
「稲生神社」と書いて「いなり神社」と読む。
⇒5al07 (稲荷町)稲生神社
ところで、稲荷神といえば「穀物・農業の神」というのが一般的な認識だが、製鉄民に信仰されている神でもある。理由は不明。
『鉄から読む日本の歴史』(講談社)の著者の窪田蔵郎氏は風神信仰の発展したもので、古来、東南風のことを「イナサ」と呼び、これが「イナセ」に転化し、さらに「イナリ」に変化したのではないかと推測している。
あと詳細がわからないけれど、良く見かけるのが「イナリ=鋳成」説。また「白鳥伝説」と鍛冶の関係を指摘する説もある。
(参考)⇒於泥権現社⑲ ヤマトタケルと白鳥 - スネコタンパコの「夏炉冬扇」物語 - Yahoo!ブログ
そういうことから、俺は前田利家が目を負傷したという「稲生」に関心があり、「稲生物怪録」を知ったときにも、その「稲生」という名に興味を覚えたというわけ。だけど「稲生物怪録」と金属民との関わりは俺には見つけられなかったし、おそらく直接の関係は無いだろう。
(なお、石川県金沢の地名の由来になった芋掘藤五郎伝説には「伏見」という地名が出てくるが、これも伏見稲荷と関係があるのかもしれないとひそかに思ったりする)
⇒伏見寺(ふしみでら) 石川県金沢市寺町5-5-28
(つづく)