ホメオパシーは「医業」か?

ホメオパシーはまた人を殺すだろう - NATROMの日記


この記事を読んで思うことは、「これって医師法違反なんじゃないのか?だとすればそれを取り締まればいいだけの話だ」ってこと。NATROM氏も

それに、仮にホメオパスに経験や知識があったとしても、重篤な疾患ではないと判断することは、診断ということになり医師法違反ではないか。

も書いてるが。


しかし、どうもそう単純な話ではないらしい。俺は素人だから誤解しているかもしれないけれど。



そもそも医師法には何と書いてあるか。該当するのは、

第17条 医師でなければ、医業をなしてはならない。

医師法(法庫)
だろう。


たったこれだけだ。しかし「医業」とは何ぞや?ウィキペディアによれば、

医業(いぎょう)とは、業として、医療行為(医行為)を行うことをいう。

日本では、医業について医師法第17条に「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と規定されており、医師(医師免許を持つ者)以外が行なうことを禁止している。これに対して、歯科医師法第17条に「歯科医師でなければ、歯科医業をなしてはならない。 」と規定されている歯科医業があるが、医業と歯科医業が重複することもある。(重複している部分は、医師、歯科医師ともに医療行為を行ってもよい。)

ここでいう「医療行為」の意味については、内容が多岐に渡るのみならず医学の進歩に伴い内容が変化するものでもあるため、定義自体に混乱・争いがある。また、医療行為の侵襲性についての解釈にも見解の対立がある。ここでは、

1. 医行為とは、医療行為と同義である、とする見解
2. 医療行為のうち、医師の医学的判断及び技術をもってしなければ人体に危害を及ぼす恐れのある行為であるとする見解

の対立を挙げておく(医療行為、医行為も参照)。

医業 - Wikipedia
とある。


この時点で、もう俺は頭が混乱してくる。だが気になるキーワードとして「侵襲性」というのがある。

医療行為としての侵襲は、外科手術などによって人体を切開したり、人体の一部を切除する行為や薬剤の投与によって生体内になんらかの変化をもたらす行為などを指す。

このような行為は医師法により医師でなければ行ってはならない。一般に行われている医療行為は人体に対する侵襲である。医業かどうかの境目はこの侵襲する行為があるかどうかによって判断が分かれる。人体を侵襲する目的で作られた器具や機械は医療機器として扱われる。

侵襲 - Wikipedia


「医業かどうかの境目はこの侵襲する行為があるかどうかによって判断が分かれる。」とある。


また「治療」の項目を見ると、

日本では人体を侵襲する治療行為は、医師免許を持つ医師または医師の指示を受けた看護師(やはり資格・免許を持つ)以外が行ってはならないことになっている。また資格を持つ救急救命士も、特定の救命措置に関して、気管挿管による気道確保や点滴の刺針・所定薬剤の投薬などの、所定の救急医療措置を行うことができる。鍼灸師(→鍼)による針治療も認められているが、こちらも資格による免許制である。

治療 - Wikipedia


とある。これによると「針治療」は医業ということになると思われ。ただし法的には「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」によって規制されているそうだ。
あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律 - Wikipedia


「漢方」は侵襲性があるといえるので医業だと思われるけれど、

明治政府の政策により1874年以降は西洋医学を学び医師免許を取得しなければ医師と名乗ることが出来なくなった。現在でもこの規程は有効であり、純粋の漢方医は日本には存在しない

漢方医学 - Wikipedia

日本では明治維新後の1874年、医師を免許制とする制度が導入され、1876年には新たに免許を受けようとするものは洋方六科試験合格が必要となることが内務省から通達され、漢方医を志す医師であっても西洋医学を学ぶことが必須とされるようになったが[2]、

医師 - Wikipedia
とある。



さて、問題のホメオパシーはどうか?


既に広く知れわたっているように、ホメオパシーのレメディは科学的に見ればただの「砂糖玉」だ。ということは、砂糖玉を処方したところで人体に危害が及ぶ可能性はない。つまり侵襲性がないということになってしまう(一部のレメディーには何らかの成分が入っているという話があるので、そちらは侵襲性があるといえるかもしれないが)。


ということは、ホメオパシーは医業ではないということになってしまう。すなわち医師法の外にあるということになってしまうのではなかろうか?


ただし、ウィキペディア「診察」の項を見ると、

診察(しんさつ)とは、医師・歯科医師が患者の病状を判断するために、質問をしたり体を調べたりすること。医療行為の一つであり、医師と歯科医師以外の医療従事者は行うことができない。

診察 - Wikipedia
とある。ただ、これも「医師と歯科医師以外の医療従事者」が行うことができないと読めてしまうのがよくわからないのだけど。ちなみにウィキペディアの「診断」の項目では法的な規制については何ら書いていない。
診断 - Wikipedia


俺は無知だから、間違っているかもしれないけれど、このように見てみるとホメオパシー問題は医師法の想定外の事態なんじゃないかと思う。


asahi.com(朝日新聞社):ホメオパシーHP相談、医師法抵触か レメディーを助言 - アピタル(医療・健康)

 国学院法科大学院の平林勝政教授(医事法)は、「体験談紹介」のやりとりが医師法に触れる可能性を指摘する。「レメディーが薬品でないにせよ、症状を訴えてきた病人に、あたかもそれが効いて疾病に効果があるように勧めれば、実態は薬を処方するのと同じではないか」と説明。「仮にレメディーに一定の効果があったとしても、医師による治療を受ける必要があるかどうかを判断することは、医師でないと出来ない」と話す。

 これに対し、日本ホメオパシー医学協会は「薬を処方することは医業にあたる。しかし、薬でないもの(=レメディー)をすすめることは医業にあたらない。したがって違法であるとは考えない」と文書で回答。医師法については、「ホメオパシーを対象にはしておりません」としていて、「先生」に医師が含まれるのか明らかにしていない。

これも見出しには「医師法抵触か」とあるけれど、現状ではそう判断するのは苦しいのではないだろうか?だからといってホメオパシー側が開き直るのも「あんたがそれを言うか?」って話だが。



じゃあ、どうするかって話だけれど、医師法「医業」の適用範囲を拡大するってのが真っ先に考えられること。でも考えてみれば「砂糖玉」を処方するのが医業なら、「まじない」や「お守り」や「お札」も医業になってしまわないか?


次に思いつくのは、「診察」についての規制を強化するって方法。これはいけるかもしれない。だが、俺の素人考えでは思いつかないような問題があるかもしれない。


あと考えられるのは、ホメオパシー医師法と関連付けしようとすることは放棄して、ホメオパシーだけをターゲットにした法規制をするということ。これも上に同じで俺の思いつかない問題点があるかもしれないが。


もちろん、それ以前にホメオパシー側が自主的にルールを作るのが望ましいんだけど。



※あと、医師法についての国会での質疑応答(ずいぶん古いけれど)
衆議院会議録情報 第002回国会 厚生委員会 第16号

○榊原(亨)委員 次に医師法についてお伺いいたしたいのでありますが、第四章の第十七條の「医師でなければ、医業をなしてはならない。」の医業という意味は、医師でなければ人体に危險を及ぼすような医療行為というふうに解釈してよろしゆうございますか。医業の解釈を伺つておきたいと思います。
○久下政府委員 医業の観念は実ははなはだむずかしいのでございまして、私どももこの観念が一般的に確定したものがございますれば、むしろこれを法律の中に取入れて書きたいと思つていろいろ研究もいたしたのでございますが、法律の中に医業の観念を規定するほどに、一般的に固まつていないように感じました。以下申し上げる医業の観念もさような意味でお聽き取り願いたいと思います。私どもは、医業とは医を業とするものである。医を業とするということは、多数人に対して反復継続の意思をもつて行うものであると解しております。すなわち医術というのは、私どもの考えといたしては、疾病の診察、治療、投藥などをいうものと解しております。何が疾病であり何が治療であるかということにつきましては、もちろん医学も日進月歩のことでありますから、今固定的にそれの観念を下し得ないと思いますが、疾病の診察、治療、投藥、そういうものを指すものと理解をいたしております。